研究課題/領域番号 |
22K19301
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
笠原 浩二 公益財団法人東京都医学総合研究所, 基礎医科学研究分野, 室長 (60250213)
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研究分担者 |
小松谷 啓介 公益財団法人東京都医学総合研究所, 基礎医科学研究分野, 研究員 (30795620)
菊池 紀仁 公益財団法人東京都医学総合研究所, 基礎医科学研究分野, 研究員 (30883714)
平林 哲也 公益財団法人東京都医学総合研究所, 基礎医科学研究分野, 主席研究員 (90345025)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 新型コロナウイルス / 脂質ラフト / 侵入機構 / ガングリオシド |
研究実績の概要 |
COVID-19を引き起こすSARS-CoV-2はのウイルス表面上にあるスパイクタンパク質(Sタンパク質)は宿主受容体ACE2と結合する。その後、細胞内に侵入する経路には膜融合経路とウイルス全体がエンドサイトーシスにより取り込まれるエンドサイトーシス経路の2種類が知られている。前者は宿主プロテアーゼTMPRSS2によるSタンパク質切断で露出するfusion peptideにより起こると考えられているが、後者においてはその分子メカニズムは未だに明らかになっていない。 多くのウイルスはスフィンゴ脂質とコレステロールに富んだ脂質ラフトを介した細胞侵入機構を持つことが知られている。そこで我々は、SARS-CoV-2が脂質ラフト構成成分であるシアル酸含有糖脂質であるガングリオシドを介した細胞侵入をすると考え、SARS-CoV-2 Sタンパク質とガングリオシドの相互作用を明らかにし、ガングリオシドを介した細胞侵入機構を明らかにすることを本研究の目的とした。
SARS-CoV-2 Sタンパク質のSubunit 1 (S1)は宿主受容体ACE2と結合する領域Receptor binding domain (RBD)とN terminal Domain (NTD)が存在し、そのRBDとNTD両方にシアル酸が結合することが報告されている。そこでBiacoreを用いた表面プラズモン共鳴解析をおこなったところ、SARS-CoV-2 S1タンパク質N末端側フラグメントNTDとガングリオシドGM1との結合を確認した。また、他のガングリオシド種(GM2、GM3)はS1タンパク質と結合しなかった。これはSARS-CoV-2 S1タンパク質のN末端領域がガングリオシドGM1と結合することで脂質ラフトを介するエンドサイトーシス経路によって細胞に侵入する可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Biacoreによる表面プラズモン共鳴解析を行うにあたって、当初ははっきりとした結果が得られなかったが、ガングリオシドミセル調製方法、ガングリオシド固定化チップの選択、緩衝液の条件などを検討した結果、ガングリオシドGM1とSARS-CoV-2 Sタンパク質のSubunit 1 (S1)およびS1タンパク質N末端側フラグメントNTDとの相互作用解析が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
脂質ラフトおよびガングリオシドGM1がSARS-CoV-2の感染に必要不可欠であるか、ACE2発現HEK293T細胞とSARS-CoV-2 Sタンパク質発現疑似ウイルスを用いて実験を行う。SARS-CoV-2 スパイクタンパク質を外套する組み替えレトロウイルスを擬似ウイルスとして作出する。まずメチルβシクロデキストリンによる脂質ラフト破壊により、疑似ウイルスの感染が抑制されるかどうかを調べる。さらに、CRISPR-Cas9法によりガングリオシド生合成系の初発酵素GlcCer合成酵素(UGCG)を欠損させ、ガングリオシドGM1欠損細胞による感染抑制効果を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物価高騰を危惧して多めにBiacore解析に必要十分と計画していた額が想定より抑えられたため。未使用額は次年度のゲノム編集などに必要なCas9ガイドRNA発現ベクター、クローニング用ベクター、制限酵素および試薬、器具などの消耗品の購入に使用する予定である。
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