今後の研究の推進方策 |
今年度までにTardiVecを用いたクマムシにおけるライブイメージングの基礎はほぼ確立できたといえる。ただし、乾眠の前後における細胞内をより詳細に観察するには、適切な支持体や顕微鏡の選定がさらに必要であるといえる。クマムシ固有遺伝子であるCAHSはin vitroやヒト培養細胞内で繊維様の構造体を形成することが複数のグループから報告されており [M. Yagi-Utsumi et al., Sci. Rep., 2021, A. Malki et al., Angew. Chem. Int. Ed Engl. , 2021, A. Tanaka et al., PLoS Biol., 2022]、次の段階として、CAHSの繊維構造が実際に乾眠時にクマムシ細胞内でも形成されているかが重要な点となっている。研究代表者はS. Tanaka et al. PNAS, 2023においては、CAHSの繊維構造が観察されなかったことを報告しているが、観察手法を改善することにより、より高解像度でクマムシの細胞内をライブイメージングできるようにすることが求められている。クマムシはクチクラ性の外皮を持つことから、そのままの観察では光学的な問題を突破できない可能性もあるため、クマムシ細胞のプライマリーカルチャーを検討することで健常な状態でクマムシ細胞の観察を長時間おこなうことができるようなシステムを構築することも検討中である。これにより、CAHSの繊維構造の観察に加え、細胞膜や細胞小器官が乾眠前後でどのような動態を示すかを明らかにしたい。また、TardiVecはクマムシ研究を大きく飛躍させることが期待される技術であり、国内国外の研究者にプラスミドDNAの分与や技術の伝授を積極的におこなうことで、クマムシ研究全体の発展に貢献していきたいと考えている。
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