研究課題/領域番号 |
22K19309
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
嶋田 知生 京都大学, 理学研究科, 講師 (20281587)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | ゲノムインプリンティング / ゼニゴケ / 胞子体 / コケ植物 |
研究実績の概要 |
ゲノムインプリンティング(ゲノム刷り込み)は有性生殖後の二倍体の組織の細胞において、両親由来の2つの対立遺伝子(アレル)の一方のみが発現して機能する現象である。現在、ゲノムインプリンティングは哺乳類と被子植物のみで知られている現象である。最近、ゼニゴケ胞子体の発生初期段階において、オス由来の対立遺伝子の大部分がサイレンシングを受けていることが報告された。ただし、サイレンシングを受けたこれらの遺伝子のその後の発現変動については今後の解析が必要である。 最近、我々はbHLH型転写因子をコードするSETA遺伝子の変異体では、胞子体の蒴柄組織に形成不全が見られることを見出した。公開トランスクリプトームデータからSETA遺伝子の発現は、胞子体特異的であり葉状体ではほとんど検出されないことが示唆されている。本研究では葉状体に与えるSETA遺伝子の影響を調べた。その結果、SETA遺伝子を過剰発現させると葉状体の生育不良が見られた。一方、SETA遺伝子のノックアウト変異体では葉状体に特に表現型は見られず、気室口も野生型と同様に形成されていた。ゼニゴケSETA遺伝子は被子植物の気孔形成に関わるbHLH型転写因子遺伝子のホモログである。ゼニゴケSETA遺伝子をモデル被子植物シロイヌナズナに過剰発現させても、気孔には特に影響は見られなかった。以上の結果より、SETA遺伝子は胞子体で主に機能しているが、異所的発現によっては葉状体にも影響を与えうることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画にそって解析を進めているが、これまで用いてきた野生型の標準系統であるTak-1およびTak-2と異なり、新たに入手したゼニゴケ系統の生殖誘導の頻度が著しく低く、交配実験に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画にそって、多型の見られる複数のゼニゴケ系統間で掛け合わせを行い、発生途中の胞子体を用いたRNA-seq解析を行う。リシーケンスにより同定したSNPsやsmall indelを指標に、発現量に差の見られるインプリント遺伝子を網羅的に同定する。同定したインプリント遺伝子については、変異体の作出と機能解析、発現制御機構の解明などを行い、コケ植物におけるゲノムインプリンティングの総合理解を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)ゼニゴケ標準系統と異なり、新たに入手したゼニゴケ系統の生殖誘導の効率が著しく悪く、RNA-seq解析に供する胞子体の準備に時間がかかったため。 (使用計画)ゼニゴケの各系統について生殖誘導に必要な光や温度などの条件検討を行い、十分量の胞子体を確保してRNA-seq解析を行う。
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