動物にとって高温環境中での生存は容易ではない。昆虫は変温動物であることから、高温環境において外気温と同じ温度まで体内温度が上昇してしまう。そのため高温適応が可能な昆虫は少ない。これまで調べられている中で、最も高温に耐性をもつ昆虫の一つが、Cataglyphis bombycinaと呼ばれる砂漠に住むアリである。本研究の目的は、高い熱耐性を持つことが知られる砂漠アリが、どのように高温下でも活動しているかを比較生理学的に解明することである。 これまでにC. bombycinaには熱耐性能を高める何らかの代謝物があるとの仮説を立てて、熱耐性の低いアリやショウジョウバエと比較し、特徴的な代謝物の存在を仮定した。その結果、体内中にアミノ酸であるリシンが少ないことが明らかとなった。リシンはショウジョウバエでは高温下で上昇するが、C. bombycinaでは変動がなかった。ショウジョウバエにリシン制限餌を食べさせたところ、dose-dependentに熱耐性が増大することを確認した。リシン制限餌は、オスについてもメスについてもその熱耐性を増大させたが、いずれも熱応答タンパク質の発現には影響しなかった。そこでRNAseq解析を行い、リシン制限下で変動するいくつかの遺伝子を同定した。興味深いことに、リシン制限によりショウジョウバエの寿命が延長した。このことから、体内リシン量が低く保たれていることにより、恒常性が保たれ熱耐性や寿命が高まる可能性が明らかとなった。これはオートファジーには依存しない機構であることもわかった。
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