本研究では、マイクロポアデバイスを用いた染色体の構造情報の高速・高感度取得を実現し、染色体異常を検出する新たな手法の開発に取り組んだ。ヒト培養細胞から単離した染色体を用い、染色体がポアを通過した際に観測される電流阻害波形のピーク幅と高さ(波形パターン)で染色体の構造を評価した。直径10マイクロメートルのポアデバイスでヒト単離染色体を解析した結果、染色体の構造を反映していると考えられる多数の波形パターンが観測された。しかしながら、波形パターンが複雑であるため、パターンからの染色体の識別同定が困難であった。このパターンの複雑化の原因として、ポアの直径が染色体のサイズ(幅:1~2マイクロメートル、長さ:1~10マイクロメートル)に対して大きいため、ポア通過時の染色体の方向がランダムである点、ポアデバイスを水平に設置しているため、水圧も波形に影響を与える点が考えられる。そこで、ポア直径の減少、デバイスの垂直設置が波形パターンに及ぼす影響を検討した。その結果、いずれの変更も波形パターンのばらつきを抑える傾向がみられた。今後、ポアの直径や厚さを検討することで染色体解析の精度向上が見込まれる。 ポアデバイスを用いて解析する染色体異常として、細胞老化に伴う染色体構造の変化が挙げられる。細胞老化によるテロメア長の短縮は広く知られているが、他の異常についての知見が少ない。そこで、本研究では、5-aza-2-deoxycytidine処理により細胞老化を誘導し、染色体構造の変化を蛍光イメージングにより詳細に解析した。その結果、細胞老化を誘導した細胞では、セントロメア領域のDNAの動きが増加し、セントロメア構造の崩壊が引き起こされることが明らかとなった。今後、ポアデバイスを利用した細胞老化に伴う染色体構造変化の検出を実現することで、ポアデバイスが細胞老化の定量評価のツールとしての利用が期待される。
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