研究課題/領域番号 |
22K19324
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
名黒 功 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (80401222)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | 浸透圧 / NFAT5 / 遺伝子改変マウス / 炎症 / 免疫細胞 |
研究実績の概要 |
今年度は、①浸透圧モニタリングシステムの根幹をなす人工プロモーターの性質の解析と、②浸透圧モニタリングマウスの構築を行った。 ①浸透圧に感度良く応答し、DsRedを発現する独自の人工プロモーターを導入した細胞に対して、酸化ストレス、還元ストレス、一酸化窒素、炎症性ストレスなど浸透圧と異なるストレスを負荷したが蛍光強度の上昇は見られず、少なくとも試した刺激に対しては当該プロモーターが浸透圧特異性を持つことが明らかになった。また、複数作成した人工プロモーターのstable細胞をハイコンテント画像解析することで応答性の良い細胞株を単離することに成功した。さらに、単離した細胞株について共焦点レーザー顕微鏡を用いて24時間までタイムラプスを取得したところ、蛍光の発現は浸透圧刺激後約5時間程度から観察され20時間程度で安定することが明らかになった。浸透圧ストレスの程度に対する蛍光強度の変化も検討し(dose response)350 mOsmから450 mOsmまでは浸透圧強度に対応する蛍光強度が観察されることが明らかになった。 ②実際に人工プロモーターを導入したマウスを作成するために、polyA付加配列などを含む発現用DNA配列を大量に精製し、マウスの受精卵に導入した。数回のトライアルを経て、ゲノムに目的の配列が導入されたトランスジェニックマウスを1ライン取得することに成功した。このマウスについてwhole genome sequencingを行うことで、目的の人工プロモーターが13番染色体に2回直列につながった形で導入されていることを確かめた。しかしながら、このマウスから単離した腹腔マクロファージに対して浸透圧刺激をin vitroで行ってもDsRedの蛍光の増加を認めることができず、改めてトランスジェニックマウスを構築する必要性があると判断した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は独自の人工プロモーターについて、浸透圧ストレス以外の応答性が低いことを確認できたとともに、浸透圧強度に従った蛍光強度の変化を観察することができ、本手法による体内浸透圧モニタリングの妥当性の補強ができた。また、局所の浸透圧モニタリングのために、免疫不全マウスへの注入を目指した良好な性質を示すstable細胞株の単離も遂行できており、順調に進んでいる。一方で、この人工プロモーターを用いた全身性のトランスジェニックマウスの作成については最初のトライアルを行ったが、得られたラインが1ラインしかなかったこともあり、浸透圧応答性を示すマウスラインとして取得することはできなかった。この結果を受けて遺伝子改変マウスの専門家への相談を行い、Tol2 transposaseを使用した効率的なトランスジェニックマウスの作成や、導入遺伝子の最適化を進めて再度マウス構築に挑戦する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、培養細胞に人工プロモーターをstableに導入した細胞株の取得には成功したため、引き続きこの細胞について当該モニタリング手法の浸透圧応答性・特異性についてデータを蓄積していく。また、免疫不全マウスの局所にこの細胞株を注入して、発する蛍光強度からその部位の浸透圧測定ができるか内在性の浸透圧環境が存在する腎臓などを題材に実証を目指す。 全身性の浸透圧モニタリングマウスの構築については、一般的な方法による構築に一度失敗したため、現在、遺伝子改変マウスの専門家に対する相談を進めている。相談により得られた情報から、Tol2 transposaseの利用など最新の技術を取り入れて、改めてこの人工プロモ―ターを導入したトランスジェニックマウスの構築を進め、マクロファージやT細胞など体内の免疫細胞における浸透圧環境の重要性の実証を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は2,023円であり、今年度はほぼ計画どおりに経費を執行している。実際の物品の価格は切りが良い訳ではないために生じたわずかなズレであり、次年度の使用計画に大きな影響を与えるものでないため、次年度も計画どおりの使用を予定している。
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