研究課題/領域番号 |
22K19327
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
植村 知博 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (90415092)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 病原菌応答 / ゴルジ体 |
研究実績の概要 |
真核生物の細胞内に存在する単膜系オルガネラ間の輸送は、膜交通と呼ばれる輸送システムによって厳密に制御されている。トランスゴルジ網(TGN)は、ゴルジ体以降の目的地に運ばれる積荷タンパク質の選別をおこなう重要なオルガネラである。我々は、植物細胞を用いた超解像ライブイメージング観察により、「TGNはゴルジ体とは異なるアイデンティティを有したオルガネラである」ことを見出している。in silicoの解析から同定したSyntaxin6 N-terminalドメインとTMDをもつがSNAREドメインをもたない非常にユニークな因子をSyntaxin 6-like protein in vascular plant (SYLK)と名付けた。SYLKはゴルジ体に局在し、SYP61はTGNに局在する。本研究課題では、両因子を比較解析することで、ゴルジ体とTGNの境界がどのように構築されるのかという謎に迫ることを目的とする。 ⅰ.細胞内局在を制御する因子の単離:SYLK3とSYP6のそれぞれのドメインをスワッピングし、GFPを融合させた6種類のキメラタンパク質を発現する形質転換植物を作出し、それらについて共焦点レーザー顕微鏡で観察をおこなった。その結果、いずれもドット状の構造体に局在することを明らかにした。 ⅱ.ゴルジ体とTGNの境界に局在するタンパク質の探索:TurboIDを用いて、ゴルジ体とTGNの境界に局在する因子を網羅的に取得するためのコンストラクト作成をおこなった。 ⅲ.SYLK変異体の作出:シロイヌナズナにはSYLK1-3までの3遺伝子存在する。T-DNAが挿入されたシロイヌナズナはSYLK1のみであったため、SYLK2およびSYLK3のノックアウト変異体をゲノム編集により作出し、それらを用いてSYLK1-3の三重変異体を作出した。その結果、sylk123変異体では、目立った表現型は観察されなかったが、病原菌応答や気孔開閉に異常があることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲノム編集により三重変異体も作出し、ストレス応答に重要な役割を果たしていることを発見することができた。想定外の結果であったが、非常に興味深い現象を発見しており、予定通り順調に研究が進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ⅰ.細胞内局在を制御する因子の単離:作出したキメラを発現する形質転換植物を用いて、免疫沈降実験をおこない、質量分析解析によりキメラ因子に相互作用因子を同定する。免疫沈降の精度が低いため、質量分析解析まで到達していない。そこで、免疫沈降の実験精度の向上を目指す。その結果、SYLK、SYP61、6種類のキメラタンパク質の相互作用因子を比較解析することで、SYLKの機能未知ドメインにのみ相互作用する因子を「ゴルジ体局在因子」、SYP61のSNAREドメインに相互作用する因子を「TGN局在因子」とする。「ゴルジ体局在因子」と「TGN局在因子」の変異体を単離し、それらの変異体でGLSNとSYP6の細胞内局在を解析し、ゴルジ体局在やTGN局在に影響について観察する。 ⅱ.ゴルジ体とTGNの境界に局在するタンパク質の探索:TurboIDを用いて、ゴルジ体とTGNの境界に局在する因子を網羅的に取得する。得られた因子の変異体及び細胞内局在を詳細に解析することで、ゴルジ体とTGNの境界がどのように構築されているかを明らかにする。 ⅲSYLK変異体の作出:三重変異体では気孔開閉が異常になっている。そこで、SYLKがどのように気孔開閉を制御しているかを明らかにすることで、SYLKの生理的意義を明らかにする。 ⅳ.超解像イメージングによるゴルジ体とTGNの境界の観察:SYLKのゴルジ体・TGNに異常がある変異体を用いて、新規に単離した因子の局在を超解像ライブイメージングおよび光-電子相関顕微鏡法(CLEM)を用いて観察し、ゴルジ体とTGNの関係について明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画(i)の細胞内局在を制御する因子の単離について、免疫沈降実験の精度が低いため質量分析解析まで到達できなったため。次年度は、免疫沈降実験を実施するための消耗品費、植物を育成するための消耗品費に使用する予定である。
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