研究課題/領域番号 |
22K19330
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐々木 洋 大阪大学, 大学院生命機能研究科, 教授 (10211939)
|
研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
|
キーワード | サイズ制御 / 初期発生 / マウス胚 / Hippoシグナル |
研究実績の概要 |
着床後初期胚のサイズ制御機構について明らかにするために、計画に沿って以下の研究を行った。 (1)現象の詳細な記述:胚サイズ制御の現象は1970~80年代に行われた古典的な実験で同定されたが、その後、その現象についての解析は進んでいない。本研究では、まず、その現象を再現して、現代の技術によってその現象を正確に記述しなおすところから始める。そのために、まず胚サイズ制御が起きる時期の胎生5.5~6.5日の着床後初期胚について、サイズ制御過程を正確に記述するために、胚全体の形態、核細胞の形態、全細胞数、遺伝子発現を正確に解析するための方法を樹立した。この時期の胚は大きいため透明化しないと胚全体の細胞数がわからないが透明化は胚の形態を変えてしまうために、形態変化の少ない透明化方法を用いるとともに、透明化前後の胚の両方の画像を取得してそれぞれ目的に応じて解析に供した。また、2倍胚作製では、透明帯除去作業による軽微な毒性が発生に影響を与えがちであったが、2倍胚の作製技術がほぼ確立でき、着床前の後期胚盤胞ではエピブラスト細胞の数が2倍胚では倍になっていることが確認できた。 (2)Hippoシグナルの関与の解析:胎生5.5~6.5日胚におけるHippo経路因子YAPの分布を解析した。胎生6.5日の胚では、エピブラスト細胞でYAPの核移行が見られ、Hippoシグナルが働いていないことが分かった。また、薬剤投与によりHippo経路因子LATS2キナーゼあるいはそのキナーゼ活性欠損体(LATS2-KD)を発現誘導できるトランスジェニックマウス系統を作成した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2倍胚作製時の透明帯除去操作が発生に与える影響や、胎生6.5日胚の胚全体の細胞の解析法の確立など、いくつかの技術的な困難があり、これらを克服するために試行錯誤を行い、予想外に時間がかかってしまった。現在はこれらの問題はほぼ解決されたため、今後は予定通りに研究が遂行できると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
時間はかかったが、今年度の研究により、着床後初期胚の胚全体を観察できる系、2倍胚作製系、Hippoシグナル操作系が樹立できたため、来年度は、これらの系を用いて、計画に従い、以下の解析を行う。 (1)現象の記述:正常胚と2倍胚で胎生5.5日から胎生6.5日胚にかけて、胚サイズの制御が起こるかを定量的に解析する。また、サイズ制御が起きている場合には、細胞数の変化だけでなく、胚形態と細胞形態の変化も解析する。また、細胞増殖と細胞死の頻度をマーカーの染色で解析する。 (2)Hippoシグナルの解析:胎生5.5日から6.5日胚のエピブラストにおけるYAPの分布を解析する。また、LATS2あるいはLATS2-KDを過剰発現してYAPの局在を変化させた場合に胚サイズの変化の有無を解析する。 (3)物理的な力の解析:胚サイズ制御時に子宮からの物理的な力による大きさの制御が起きている可能性を解析する。 (4)遺伝子変化の解析:胚サイズ制御を受けている胚と正常胚について RNAseqを行い、胚サイズ制御時に起きている現象を遺伝子発現変化から理解する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2倍胚作製時の透明帯除去操作が発生に与える影響や、胎生6.5日胚の胚全体の細胞の解析法の確立など、いくつかの技術的な困難があり、これらを克服するために試行錯誤を行い、本来の解析は、あまり進めることができなかったため、本来の解析に必要な研究経費が次年度使用額になってしまった。 現在はこれらの問題はほぼ解決されたため、来年度は今年度に実施を予定していた、胚サイズ制御現象の詳細な記載、Hippoシグナルの関与の解析、物理的な力の関与の解析、遺伝子発現の解析に着手する。これらの研究の遂行には、次年度使用額と来年度の経費を使用する。
|