研究課題/領域番号 |
22K19344
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
酒井 章子 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (30361306)
|
研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
|
キーワード | 送粉 / 微生物 / 相互作用ネットワーク / 細菌 |
研究実績の概要 |
種子の細菌が送粉過程において花を介し同種・他種の植物の種子に感染するのかどうかを花への接種実験を行って検討した。アカメガシワ種子から得られた細菌の3系統(Pantoea属(ガンマプロテオバクテリア)、Sphingomonas属(アルファプロテオバクテリア)、Robbsia属(ベータプロテオバクテリア))をアカメガシワの花期に噴霧接種し、結実期に成熟種子を採集し、種子細菌叢をアンプリコンシーケンシングによって解析した。その結果、Pantoea属とRobbsia属の系統を花に噴霧した場合については、わずかではあったが、噴霧した細菌と同じ配列が有意に増加した。一方で、微生物叢全体では、コントロールと顕著な違いは見られなかった。 花から種子への感染をよりはっきりと示すため、抗生物質に対する耐性を持つ細菌を用いて実験を行った。上記の接種に用いた細菌をリファンピシンを含む培地で培養し、Pantoea属とSphingomonas属についてはリファンピシン耐性を持つ系統を得ることができた。このリファンピシン耐性系統を、アカメガシワ、それに加え異なる種の植物の花に対し、開花期間中に噴霧接種した。その後、結実期に果実と花を採集して粉砕し、懸濁液をリファンピシンを含むR2A培地にまき28度で培養した。その結果、果皮を含む種子からは接種した細菌由来と思われるリファンピシン耐性細菌が得られたものの、種子からは得られなかった。 これらの結果から、花からの細菌の胚珠(種子)への感染は起こりうるものの、その確率は低いのではないかと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
種子の微生物叢、花の微生物叢の年々変動、病気の伝播の数理モデルによる理論的解析など、複数の論文として発表できる結果を得ている。
|
今後の研究の推進方策 |
1)接種実験 前回の実験では、異なる細菌を同じ植物個体の別々の花序に接種した。種子微生物叢を解析すると処理間には大きな違いが見られなかったが、一方で処理を行わなかった個体の微生物叢とは異なっていた。これは植物個体内で風、送粉者、維管束を介して細菌が移動したためである可能性がある。そこで、昨年個体ごとに処理を変えて、同様の実験を行った。昨年度DNA抽出までを行ったので、本年度は得られたサンプルの微生物叢を解析する。 2)多種の繁殖器官の微生物叢の年々変動 3年に渡って同所的に生育する複数種の植物の繁殖器官の微生物叢のサンプリングを行った。2年間の予備解析では、年々変動はするものの、種ごとに固有の微生物叢を保っていることが示唆されている。ただし、これまでの微生物叢の解析は委託先の事情により、1年目は2回のPCRを行う従来法、2年目はEarly Pooling法をとっているなど、若干分析条件が異なる。そこで、3年間のサンプルを改めてEarling Pooling法、Nova Seqでのペアエンドでの分析と条件をそろえて解析しなおす予定である。 3)送粉者を介した微生物の伝播 送粉者を介した微生物の伝播は、送粉者による病気の拡散の可能性を示唆する。動物では繁殖行動を介した病気の伝播(性感染症など)は研究されてきたが、植物ではあまり着目されてこなかった。植物は主に送粉者を介して有性生殖が達成されるため、雌雄が直接接触する動物の場合とは大きな相違がある。これまで送粉者を介した病気の伝播について数理モデルにより検討を行ってきたが、今後論文化に向けて議論を進めたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
すでに研究室にある消耗品・薬品を使用できたため、予定していたより消耗品の購入が少なくなった。
|