研究課題
ゼニゴケの性染色体には雌雄の性染色体に共通して座上する性染色体間ホモログ(ガメトログ)が19組存在する。ガメトログは、祖先的常染色体に由来する遺伝子であり、機能も共通すると考えられてきた。我々はゼニゴケの雌の性染色体上で雌性化を引き起こす性決定因子FeminizerとしてBPCUを同定した。予期せぬことに、BPCUには相同遺伝子BPCVがあり、雄の性染色体にコードされていた。両遺伝子は有性生殖を誘導する機能を共有するが、雌性化能はBPCUのみがもっていた。これはガメトログの概念を変える知見であった。本研究ではガメトログをゲノム編集により破壊し、雌雄の性染色体上に遺伝子が等価のものであるかを検証することを進めている。また、苔類ゲノム情報を用いた分子系統解析によりガメトログの誕生時期を推定した。ガメトログに機能差異があるかを調べるうえで、常染色体が完全に遺伝的に同じである雌雄の株を利用することが望ましい。従来のゼニゴケ雌雄標準系統は野外で採集した別個体由来であるため、常染色体上にも多型が存在した。そこで標準系統も子孫を交配した近交系を作出した。親系統および近交系のゲノムを解読し、近交系の常染色体が遺伝的に同一であることを明らかにした(投稿中)。ガメトログに機能的差異があった場合の更なる機能解析には、キメラ遺伝子の作成が有効である。そのモデルして、BPCUおよびBPCVについてドメイン構造に着目したキメラ分子を作成して機能を解析した。その結果、雌性化能力に重要な領域を同定することができた。さらにその領域について、多数の苔類に保存されているガメトログの配列比較により性染色体上で遺伝子が分岐したときも祖先的配列を推定することを行なった。祖先配列にアミノ酸置換を加えることで新な機能に重要なアミノ酸配列をすることができた(岩崎ら、日本植物学会大会にて発表)。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要に記載したように、ゼニゴケの19組のガメトログについて分子系統解析を行なった。また、苔類の進化系統樹と分子系統樹の比較により、ガメトログが苔類の進化のなかでいつ誕生したかを推定することができた。性決定遺伝子とそのガメトログは苔類の誕生とともに出現した起源が古い遺伝子であるが、他のガメトログは同じように古い起源をもつものから比較的新しいものまであることがわかり、性染色体進化の知見となった。機能解析を進めるための系統として近交系を作出した。次世代シーケンサーを用いた解析から近交系として常染色体が遺伝的に同一であることを示すことができ、変異体作成の標準系統として利用する準備ができた。性決定遺伝子の機能解析から派生したものであるが、ガメトログの機能解析に機能ドメインのキメラ解析を用いて行うことが有効であることを示すことができた。また、ガメトログが分岐する時点の祖先的は配列を推定し、ここにU染色体コード型およびV染色体コード型のアミノ酸置換を入れることの有効性も示すことができた。
近交系をホストとして、ゲノム編集によりガメトログ遺伝子に突然変異を導入し、表現型の解析を進める。分子系統樹の解析により古い起源をもつことが推定された遺伝子を優先的に解析の対象とする。変異表現型の導入した変異によることを示すには相補テストが必要である。ゲノム編集のガイドRNA領域の塩基配列に同義置換を加える常法に加えて、ことなる性染色体に由来するガメトログを用いた相補も行うことで機能評価を加速する予定である。上記のようにBPCUおよびBPCVの機能を解析するうえで、ドメインを交換したキメラ分子を作成して変異体に導入することや、祖先配列を推定して実験に用いることの有効性を示すことができた。これらの解析手法を今後その他のガメトログの機能解析にも取り入れている予定である
分子系統樹の作成を慎重に進めことで情報解析が中心となり、物品費の執行額が少なかった。次年度早々に取り掛かることを予定している。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Plant and Cell Physiology
巻: 63 ページ: 1745~1755
10.1093/pcp/pcac129