2023年度は、7月と8月に広島県福山市および沖縄県石垣島での採集を行い。野外個体の感染率とそれらが生む子どもの性比を調査した。その結果、石垣島では、前年同様スピロプラズマの感染率が低かった。福山では、2019年以降初めてオス殺しが生じているスピロプラズマ感染系統が発見された。本系統に抵抗性遺伝子を三世代にわたり導入したところ、オス殺しが生じ続けたことから、遺伝的抵抗性を打破するスピロプラズマ(ハイパー株)であることが示唆された。また、2022年度まではオス殺し抵抗性に感受性を持つスピロプラズマ(従来株)が、年を追うごとに着々と頻度を減少させていたが、頻度減少に歯止めがかかったような結果となった。この意味を吟味するには翌年度の調査が必要となる。今後のさらなる調査により、従来株が消滅し、ハイパー株が上昇していくのかどうかが明らかとなってくると期待している。さらに、今年度の成果としては、スピロプラズマのハイパー株のゲノム解析がある程度完了した点である。従来株とハイパー株とのゲノム比較の結果、それらは系統的に分岐したものではないことが明らかとなった。ゲノム上の違いを区別できるマーカーが作成できるかどうかについて検証中である。また、沖縄本島と石垣島では、本州や他島とは異なり、共生細菌ボルバキアに100%の個体が感染しており、ミトコンドリアDNAも大きく異なることが分かったが、核DNAの多様性についてGRAS-Di解析を行ったところ、石垣島の個体は、他の集団とは大きく遺伝的組成が異なり、沖縄本島の個体は本州や石垣島以外の集団と大きく異ならない結果となった。このことは、過去にボルバキアによる細胞質の選択的スイープが起きたことを示している。また交配実験により、石垣島の個体が持つボルバキアは細胞質不和合を引き起こすことが明らかとなり、選択的スイープが起きたことの強い状況証拠となった。
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