研究実績の概要 |
神経活動に伴ってシナプスの構造や機能が変化する際には、シナプス部位のプロテオームがダイナミックに変化する。細胞体由来のタンパク質が遠く離れたシナプスまで輸送されるには時間がかかるので、シナプス部位へのタンパク質の機動的な供給機構として樹状突起での局所合成がある。これまでに樹状突起での局所合成がシナプスの可塑性に重要な役割を果たしていることはわかっているが、局所合成の実体には不明な点が多い。その理由は、脳組織中の神経細胞において、樹状突起中の転写産物(mRNA)とその翻訳産物(タンパク質)の両方の局在や動態をシナプスレベルの解像度で同時に観察できていないからである。そこで本研究では、脳組織内で内在性に発現するmRNAおよびタンパク質の細胞内局在を同時イメージングする方法を開発し、神経活動依存的にシナプスが変化する際のmRNAおよびタンパク質の時空間的動態を単一シナプスレベルの解像度で理解することを目的とする。2023年度は、2022年度に引き続き、マウスの脳組織内の樹状突起中の転写産物(mRNA)とその翻訳産物(タンパク質)の両方の局在や動態を同時に観察するための技術開発を行った。個体マウスの脳内の一部の細胞において、生体脳内ゲノム編集技術SLENDR/vSLENDR(Mikuni et al., Cell 2016; Nishiyama et al., Neuron 2017)によりシナプス分子の遺伝子座に蛍光タンパク質の配列を挿入した。そのうえで、ゲノム編集したマウスを灌流固定し、脳薄切切片を作製し、シナプス分子のmRNAを高感度RNA in situ hybridizationで標識した。その結果、mRNAの細胞体および樹状突起での局在を検出することに成功し、さらに、タンパク質の同時イメージングにも成功した。
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