研究課題/領域番号 |
22K19364
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
掛川 渉 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (70383718)
|
研究分担者 |
伊藤 政之 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (20442535)
山崎 世和 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (60581402)
|
研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
|
キーワード | イオンチャネル型グルタミン酸受容体 / カイニン酸受容体 / 記憶・学習 / 小脳 / パッチクランプ法 |
研究実績の概要 |
中枢神経系において、速い興奮伝達を担うイオンチャネル型グルタミン酸受容体(iGluR)ファミリーに属するカイニン酸型グルタミン酸受容体 (KAR) は、神経細胞の興奮性やシナプス伝達、さらには、てんかんや種々の精神疾患に関わる重要なシナプス受容体である。近年、KARはチャネルとしてだけでなく、細胞内のシグナル伝達系を駆動させる「非チャネル活動」を伴うユニークな受容体として注目されている。しかし、KARの非チャネル活動の生理的重要性についてはほとんどわかっていない。私たちは最近、運動記憶を支える小脳神経回路において、KARがチャネル活動非依存的に機能することを見出した。そこで本研究では、iGluRの新規でかつ普遍的な動作原理の理解を目指し、小脳KARの新しい活動様式について追究してきた。その結果、KARは小脳回路の要衝を担う登上線維-プルキンエ細胞シナプス(CFシナプス)に発現し、そのKARを欠くKAR-KOマウスが重篤な運動記憶障害を示すことを見出した。また、KARはシナプス前部から分泌される新規シナプス形成分子のC1q様分子(C1qL分子)と直接的に結合することを発見した。興味深いことに、KAR-KOマウスのCFシナプスにC1qL分子を欠く変異型KARを発現させた場合、KOマウスに見られる病的表現型は回復しなかったが、驚くべきことに、C1qL分子との結合部位を有する膜タンパク質においてその回復が認められた。これらの事実は、KARがC1qL分子との相互作用にもとづく非チャネル活動を介して機能していることを示唆する。今後、本研究成果がiGluRが関わる生理機能や病態発現の分子的理解につながるものと期待する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に続き、KAR欠損マウスへの変異型KAR導入実験を展開した結果、KAR-C1qL分子の重要性をより明確に実証することができた。そのため、本計画は「おおむね順調に進展している」ものと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今回、CFシナプス上のKA-R-C1ql1相互作用の機能的重要性がより明確に示唆された。今後は昨年度に引き続き、KA-R-C1ql1相互作用がどのような細胞内シグナル経路を介してシナプス可塑性や記憶・学習を制御しているのかについて、明らかにしていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2023年度は、実験が順調に進み、計画していた一部の実験を遂行する必要性が無くなった。そのため、それらの実験を遂行すべく予算を次年度に繰越し、新たに得た予備的実験結果に基づく実験計画に注力することで、本プロジェクトの更なる進展をめざす。
|