一酸化窒素(NO)はシグナル伝達において生理的な役割を果たすが,過剰あるいは慢性的なNOは炎症メディエーターとして毒性作用を示す.NOは可逆的にタンパク質のS-ニトロシル化を形成し,疾患の進行に関連した毒性機能を発揮する.エピゲノム関連酵素であるDNAメチルトランスフェラーゼはS-ニトロシル化によって酵素活性が阻害されることを明らかにした.したがって,過剰または慢性的なNO曝露は遺伝子発現を変化させることによって疾患を引き起こす可能性が考えられた.しかしながら,慢性的なNO曝露がトランスクリプトームに及ぼす影響については十分に理解されていない.そこで本研究では,NO(100μM)を48時間曝露したA549,AGS,HEK293T,SW48,HepG2細胞のトランスクリプトーム解析を行った. まず得られた情報を基にして,ジーンオントロジー解析を行った.その結果,細胞接着や遊走に関連する発現差遺伝子の機能シグネチャーがHepG2細胞の除く細胞株でアップレギュレートされていることが示された.さらに,GSEA解析から,NOが様々な細胞株で炎症関連遺伝子の発現を刺激することが示された.この知見はNOが炎症性疾患に深く関与していることを示す先行研究を支持するものであった.本研究において遺伝子発現の変化に注目することにより.NOが関連する炎症性疾患の発症メカニズムの一部を明らかにすることができた. 以上より,本研究では5種の細胞株においてNOによるトランスクリプトーム変化を解析し,いずれの細胞株でも100近くのDEGsを同定することに成功した.今後はより精度の高いDEGsの統計的な判定法を確立するとともに,シーケンスデータの解析方法について検討し,DEGsの信頼性を向上する必要がある.
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