研究課題
マウス脾臓樹状細胞(DC)はDC1(XCR1+ CD8alpha+ CD11b- CD11c+ 細胞)とDC2(XCR1- CD8alpha- CD11b+ CD11c+ 細胞)の大きく2つのサブセットに分けられる。DC1はアポトーシス細胞を貪食し、その抗原をMHCクラスII(MHCII)だけでなくMHCクラスI(MHCI)上に提示する能力をもつ。その後者の抗原提示機構をcross-presentationと呼ばれる。一方、DC2は、細胞外抗原をMHCIIに提示する高い能力をもつが、アポトーシス貪食能とcross-presentation能力を持たない。本研究で我々は、DC1とDC2の両サブセットがアポトーシス細胞から速やかに細胞接触依存的にMHCクラスI分子(MHCI)を引き抜き、そのMHCIを用いて抗原提示(cross-dressing)することを見出し、一方、DC1とDC2はいずれも生細胞からMHCIをほとんど引き抜かないことが判明した。そのため我々は、これらDCはアポトーシス細胞上に表出するホスファチジルセリン(PtdSer)を認識してMHCIを含む膜断片を引き抜くのではないかと考え、その可能性を検討した。MFG-E8(Milk Fat Globular Protein EGF-8)という可溶型タンパク質のD89E変異体はPtdSerと高親和性に結合してマクロファージのPtdSer認識を阻害することが知られる。本研究で我々は、D89Eが、DC1によるアポトーシス細胞認識を阻害するだけでなく、DC1とDC2のMHCI引き抜きをも阻害することを見出した。これらの結果は、DCによるMHCIの引き抜きはPtdSer認識依存的に起こることを示唆する。
2: おおむね順調に進展している
初年度の研究により、DCはアポトーシス細胞上のPtdSerを認識してMHCIを引き抜くことが判明した。ただしPtdSer受容体として知られるTim4やTim3の関与は低いことが予備実験結果から判明している。そこで計画していたCRISPR activationシステムによる受容体の探索を行い、現在いくつかの候補遺伝子を単離している。これら候補分子の機能解析は、次年度の検討課題であるが、現在まではおおむね順調に進展していると判断した。
今後の研究課題については大きく2つの項目が挙げられる。一つ目はcross-dressingの生理的役割の解明である。従来のcross-presentation機構の重要性を明らかにしてきた数多くの論文はcross-dressing機構の存在を否定してきたが、なぜ最近になってcross-dressing機構が提唱されるようになったのかについて検証する必要がある。本研究で我々はすでにPtdSer依存的にcross-dressingが起こることを見出しており、この実験系を用いてcross-presentationとcross-dressingの生理的役割を比較する。二つ目は分子機構の解明である。MHCIの引き抜きに関与する新たなPtdSer受容体が存在する可能性が考えられるため、CRISPR activationシステム等を用いたスクリーニングにより明らかにする。
一部の実験を次年度に行うため、62,482円を次年度に使用する。
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