研究課題
新型コロナウイルス感染症を引き起こすSARS-CoV-2は重篤な肺炎を引き起こすだけでなく、重症化時に様々な神経症状を引き起こすことが知られており、long COVID-19と呼ばれるような長期症状が懸念されている。しかしながら、中枢神経系にウイルスが感染するメカニズムはあまり明らかになっていない。そこで本研究では、ヒトiPS細胞から作製した脳毛細血管内皮細胞を用いて、SARS-CoV-2の感染とそのメカニズムについて検討を行った。まず脳毛細血管内皮細胞にSARS-CoV-2が感染し、スパイクタンパク質などが発現することを免疫染色により確認した。次に、SARS-CoV-2感染により、タイトジャンクションマーカーであるCLDN3、CLDN11の発現が低下し、経内皮電気抵抗(TEER)も低下することが認められた。さらに、COVID-19患者で炎症性サイトカインの血中濃度が上昇するとの報告があることから、脳毛細血管内皮細胞における炎症性サイトカインの発現を検討した。その結果、SARS-CoV-2感染により炎症性サイトカインの発現が誘導された。そのメカニズムとして、RNA-Seq解析によりSARS-CoV-2が脳毛細血管内皮細胞のWnt経路をターゲットにする可能性を見出した。実際、Wnt活性剤を添加した結果、脳毛細血管内皮細胞のSARS-CoV-2感染と炎症反応が部分的に抑制された。以上の結果から、SARS-CoV-2感染はWntシグナルを介して血液脳関門の機能低下を引き起こすことが示唆された。ヒトiPS細胞由来脳毛細血管内皮細胞は、COVID-19の神経病理の解明や創薬に有用なin vitroモデルであると考えられる。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Fluids Barriers CNS
巻: 21 ページ: 32
10.1186/s12987-024-00533-9