心臓は血液循環を介して様々な臓器とつながっており、その機能不全(心不全)は他臓器の機能障害へと直結する。特に、心不全患者の多くは筋力や糖代謝能の低下やうつ病との合併により予後不良となることから、心臓と骨格筋・肝腎・脳との間には強い連関があると考えられる。心臓は、酸素(血液)を供給するポンプ器官としてのみの位置づけであったが、心不全の代償機構としてANPを分泌することが明らかにされ、内分泌器官としての役割に関心が高まってきている。本研究では、細胞種特異的タンパク質標識法を用いることで多細胞間・組織間で輸送されるタンパク質群を網羅的に同定する実験系を構築し、心筋を起点とする新たな連関を見出すことを目的とした。具体的には、変異型メチオニンtRNA合成酵素(MetRS)を利用したBONCAT (Bio-Orthogonal Non-Canonical Amino acid Tagging)法を用いた。アジド基を持つメチオニンアナログAzidonorleucine (ANL)が変異型MetRS(MetRS L274G)によってのみ認識されることを利用して、変異型MetRSを心筋細胞特異的に発現させたマウスを作出した。このマウスにANLを摂取させ、ANLを取り込んだ心筋細胞由来のタンパク質をclick chemistryを用いてビオチン標識化させたところ、高分子よりむしろ低分子量側(25kDa以下)に多くのタンパク質が抽出されることを確認した。一部のマウスを心不全病態モデルと掛け合わせたところ、抽出されるバンドパターンに違いがみられ、病態特異的に生じたバンドのタンパク質をプロテオーム解析により特定したところ、想定外にも多くがミトコンドリア由来のタンパク質であることがわかった。これら個々のタンパク質が多臓器にどのような影響を与えるかについては今後の検討課題としたい。
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