研究課題
脳高次機能は細胞外空間を介した脳細胞間情報伝達によって発現するが、生体において細胞外の化学的環境がどのような時空間的規模で変容し、脳活動に影響を与えているのかはわかっていない。これには高精細な細胞外イメージング技術がないことが大きな障壁となっている。本研究では、独自に開発を進めている小型軽量化CMOSイオンイメージセンサを生体脳に適用し、個体の行動に伴うイオンダイナミクスを捉えることを目的とした。本年度は、昨年度までに完成した小型軽量化センサのプロトタイプを生体脳に埋植し、個体の行動に伴う細胞外イオンの変化の検出を試みた。検証のために神経疾患モデルを用い、発症時のイオン動態を評価した。その結果、行動異常に伴って細胞外イオン動態が変化することが明らかとなった。今後、このイオン動態の変化が生じるメカニズムや疾患との関連性を明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
本イメージセンサは、半導体集積回路上にセンサがアレイ状に並んでおり、センサ表面のイオンによる表面電荷の変化によって、高い時空間解像度でイオン像が撮影できる。しかしながら、これまで開発してきたセンサは質量や大きさの観点からマウスなどの小動物の行動を妨げるため、自由行動中のイオン計測を行うことが困難であった。昨年度までに、自由行動下において生体脳の細胞外イオンの安定的な計測に成功した。そこで本年度は、小型軽量化したセンサのプロトタイプを生体脳に埋め込み、個体の行動に伴うイオン動態の変化を計測することを目標とした。センサを神経疾患モデルの大脳皮質および海馬へと埋植し、発症時において細胞外pHが変動することを計測することができた。したがって、当初の目標を十分に達成できたと判断した。
本年度は個体の行動に伴う細胞外イオンの変化を計測することを目的として昨年度までに開発した小型軽量化プロトタイプを神経疾患モデルに適用した。その結果、発症時の行動異常に伴った細胞外イオン動態の変化を検出することができた。今後は、このイオン動態の変化が病態にどのように関連するのかを追求し、イオン動態がどのようなメカニズムによって生じているのかを明らかにする。さらに行動薬理的な手法を用いて、特定の行動中におけるイオン変化についても検証したい。
研究計画が順調に進行し、試薬や部材の消費を抑えることができたため、未使用額を消耗品に充て、センサの生体検証を進める予定である。
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