研究実績の概要 |
本研究課題は、未だ技術的に難しい細胞内脂質可視化の技術開発とその応用を目的とした。主にリン脂質をターゲットにし、未解明な点が多い細胞内脂質空間情報の取得から生体機能に寄与する局所的な脂質機能の解明を目指す。既に成功しているラマン顕微鏡による重水素ラベル脂肪酸の細胞内五重染色(脂肪滴)(Uematsu et al. FASEB J. 2020)を発展させる。生体内に微量だが質量分析計(liquid chromatography-mass spectrometry, LCMS)で検出できるリン脂質脂肪酸Xがある。今回、その脂肪酸Xの重水素ラベル体を共同研究者(早稲田大学先進理工学部、細川誠二郎博士)に作成頂いた。脂肪酸は細胞培養液に添加すると速やかに細胞内に取り込まれ、脂肪酸CoAに変換されたのちに、中性脂質やリン脂質に組み込まれる。今回、Hela細胞の培養液中に30マイクロM重水素ラベル脂肪酸Xを添加してラマン顕微鏡(inVia Raman microscope, RENISHAW)で観察した。その結果、ラマンスペクトルで2000-2200カイザーに特徴的な重水素由来のピークを検出し、画像では細胞内にドット状の脂肪滴様構造を確認できた。今後、中性脂質合成抑制や他の重水素ラベル脂肪酸などとの共添加を行いシグナルの空間的変化を解析する。また、リン脂質合成酵素欠損細胞を用いた解析により、リン脂質組成変動と脂肪酸局在変化の観察も試みる。また、同時に質量分析計によるリン脂質や中性脂質(トリアシルグリセロールなど)の脂肪酸同定(重水素脂肪酸)も必要である。
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