研究実績の概要 |
腸内細菌叢と腸管バリア機能は相互に影響し合って恒常性を維持しているが、腸管バリア機能を維持する機序の全容は明らかではない。腸管バリア機能の低下 は、消化管疾患のみならず全身の疾患の発症に関わることから、腸管バリア機能低下に働く腸内細菌を明らかにし、この腸内細菌が腸管バリアの破綻に働く機序 の一端を明らかにすることが出来れば、炎症性腸疾患、アレルギー、がん、神経変性、老化などの病態の理解と治療法の開発に貢献することになる。 我々は、抑制性免疫受容体アラジン-1ノックアウトマウスの腸管バリアが野生型と比較して定常状態で既に低下している現象を見出した。腸管バリア機能は FITC蛍光標識化高分子デキストラン(FITC-dex, 4 kDa, 10 mg/マウス)を経口投与して検証した。FITC-dexは細胞間隙短経路により吸収・透過されるため、腸 管上皮が障害を受けるとデキストランの吸収・透過が亢進し、その結果血清中のFITC蛍光が亢進する。アラジン-1ノックアウトマウスの腸管バリア機能の破綻 はアンピシリン耐性でネオマイシン感受性の腸内細菌によるものであることを明らかにした。16s RNAシークエンスの結果から、アンピシリン投与後のアラジ ン-1ノックアウトマウスにおいてリード数と血清FITC価が正に相関するグラム陽性編性嫌気性桿菌Aの単離に成功した。そこでこの細菌Aを無菌マウスへ移植し たが、移植後2週間目の腸管バリアの破綻は観察されなかった。グラム陽性編性嫌気性桿菌Aは単独では腸管バリア破綻に働かずに他の細菌と協調して働く可能性 がある。そこで、細菌Aをアンピシリンを2週間投与したWTマウスへ移植して腸管バリア機能を検証した結果、腸管バリア機能の破綻が観察された。
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