研究課題
これまで、膵腺癌のoriginに関しては、膵腺房細胞あるいは膵導管細胞と考えられてきた。しかしながら、本研究では、新たにPpy発現細胞を起源とする膵腺癌のモデルマウスを解析する事により、あらたな膵癌発生機序の存在について提唱したい。Ppy-CreとROSA26-LSL-Large Tマウスを交配することにより、Ppy発現細胞(PP細胞)に癌遺伝子であるLarge Tを発現させたところ、マウスは例外なく4週令までに非常に高率よく膵腺癌を発生した。この組織形状について病理学および膵癌生物学の専門家より組織学的には膵腺癌(Pancreatic Ductal Adenocartinoma; PDAC)であることを確認した。また、この組織から得られた細胞を免疫不全マウスに移植したところ、2週間でtumorが形成され、組織学的にはPDACが形成された。さらなる解析で、胎生期16.5日頃から少数の細胞でLarge Tが発現し始めるが、生後7日令以前には膵島に目立った変化が見られない。それ以降、膵島周辺部にLarge T陽性の大型の核を有する細胞が出現して増殖しながら導管様構造を生じ、生後14日目には膵島からCK-19陽性の異常な導管様構造が突出して、21日齢には、膵島外に浸潤してゆく様子を経時的にとらえることが出来た。この前癌病変はAlcian blue陰性であり、一般的な腺房細胞を由来とする膵癌の前癌病変として知られるPanINとは異質であることが示唆された。次に、胎生期ではなく、Ppy-CreERT2マウスを用いてadult(10週令)になってから誘導性にLarge TをPpy陽性細胞に発現させたところ、インスリン弱陽性のPNETが膵島部に限局して産生される個体を得た。現在、再現性について検討を加えている。
2: おおむね順調に進展している
膵島生物学に限局すると、学術雑誌のpublicationの90%が膵β細胞を対象としたの研究であり、最近はα細胞を対象にする研究者も増えてきたが、PP細胞についてはほとんど報告がない。本研究はそのような未開拓のPP細胞を解析するために必要な特異的抗体など基本的toolを独自に整えてきた申請者らが中心に進めている新規性の高い研究である。この一年間の組織学的な解析と移植実験により、PP細胞は膵腺癌の新たなoriginに成り得るという確かな手ごたえを得るまでに解析を進めることができた。今後、分子レベルの解析を加えることにより、その過程を分子の言葉で説明することを予定している。レポーターマウスを用いての、Ppyを発現した細胞(Ppy系列細胞)のFACS sortingの条件決めに時間を費やしたため、本年度の研究費使用額は少なく収まった。この一年間でその条件を決定しえたため、2年目にはRNA sequencing, lineage tracing等の多くの解析を予定している。
一年目に確立した、Ppy発現細胞のFACS sortingの条件にしたがい、RNA-seqを施行し、Large Tを発現することにより、Ppy細胞で発現変動する遺伝子を同定し、この特殊な膵癌の発癌過程の遺伝子レベルでの解析および理解を目指す。また、adult時期でのLarge T発現誘導実験の再現性を確立する。さらに、どの時期のPpy発現細胞に膵癌を形成する可塑性が残っているのかを、誘導発現系を用いて明らかにしてゆきたい。しかしながら、Cre-ERT2の誘導効率が低いことと、tamoxifen投与の毒性でマウスの生存率が低いため、困難に直面している。若年令や胎生期の膵臓を摘出して一細胞に分離したのち、ex vivoにおいてtamoxifen投与を行ったのちにathymic miceに移植して発癌するかどうか等の解析もoptionとして試みたい。一般的にはPtf1a-Cre;LSL-KRASG12D;p53flox/+の系が膵癌の研究には用いられているため、Ptf1a-CreをPpy-Creに置き換えてKRASを活性化させる実験においても膵癌を発生するかを見極める実験の準備をしている。
本研究に関して、マウス組織と抗体などを用いた組織学的解析並びに人件費について必要になった額を主に令和4年度において消費した。FACS sortingした細胞を用いたRNA-seqについては条件検討が令和4年度中に完了し、実際の対象とする発癌モデルマウスを用いた解析については、令和5年度に集中して施行するため、その消耗品や解析に必要な委託費を主に令和5年度に使用する計画となっている。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 4件) 備考 (1件)
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https://tou-taisha.imcr.gunma-u.ac.jp/