B細胞に発現する抗原受容体(B cell receptor、BCR)は、増殖から、活性化、死滅まで多様な応答を誘導するが、その分子基盤は不明である 。BCRは発現しているだけで、生存や増殖に必須なシグナルを伝達していると理解されているが、分子レベルでの理解には至っていない。BCRは抗原刺激により架橋されると、活性化シグナルを伝達し、増殖、あるいは細胞死が誘導される。一部 のB細胞リンホーマにおいては、変異型MyD88がTLR9やBCRと複合体を形成し、生存・増殖シグナルを伝達する。このBCR、TLR9、MyD88からなる複合体が正常なB細胞の増殖にも関与するのか不明である。また、正常B細胞はTLR9リガンドに加えて、TLR7リガンド刺激でも増加するが、その際にBCR-TLR7複合体が形成されているのかについてもわかっていない。我々は、正常B細胞の生存・増殖において、BCR-TLR複合体がBCR単独とは異なる応答を誘導しており、BCRの誘導する応答の多様性を説明する分子基盤として重要である可能性を本研究において検討する。現在、BCR依存性の細胞増殖をIL-3依存性細胞株であるBa/F3細胞で再現するべく細胞の作製を進めている。具体的には、マウスIgM重鎖、λ軽鎖、CD79a、CD79bのcDNAを導入しBCRの発現を確認している。さらにこの細胞株にTLR9およびそのシャペロンであるUnc93B1を発現させた細胞株を確立した。さらにヒトのBCRとTLR9を発現するBa/F3細胞株、さらにはTLR9依存性に増殖することが報告されているB細胞リンホーマをそれぞれ確立、入手する。これらの細胞を用いて、抗IgM抗体、TLR9リガンド刺激で増殖が誘導されるか、検討する。
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