研究課題
精巣は免疫寛容を持つことが古くから知られている器官である。精巣の体細胞が作る微小環境が免疫抑制の原因であるとこれまで考えられていたが、生殖細胞、中でも精子形成の源となる精原幹細胞 (spermatogonial stem cells; SSCs) の免疫学的特性は不明である。今回の研究で我々はSSCが発現する免疫抑制性分子である PD-L1 の発現増強によるアロ子孫の作成に成功し、生殖細胞自身も免疫抑制の能力があることを示すことが出来た。まず我々は SSCの自己複製分子であるGDNF と FGF2 の試験管内での添加は、培養されたSSCであるgermline stem (GS)細胞 における PD-L1 の発現を増加させることを見出した。こうして培養された GS細胞 は、同種異系の精巣において1 年以上にわたり精子形成を維持することが可能であった。しかし、GS細胞における Pd-l1 ファミリー遺伝子の発現低下または遺伝子編集は、同種異系マウスにおける精子形成を妨げ、PD-L1分子が生殖細胞が免疫反応の抑制に関与していることを示唆した。 その後の解析によりPD-L1 は、reactive oxygen species (ROS) 生成による自己複製を促進する MAPK14-BCL6B 経路の活性化によって誘導されることが明らかになった。一方、ROS の減少または Mapk14 の欠損は、PD-L1 の発現低下を引き起こした。アロ産仔は、先天性不妊およびbusulfanにより化学的に去勢されたマウスの精巣へのGS細胞の移植後に得ることができた。このように、SSC には独自の免疫学的特性があり、免疫学の障壁を越えて別個体の雄が「代理父」になることが可能である。
1: 当初の計画以上に進展している
当初はアロ移植におけるPD-l1分子の制御機構が不明であったが、サイトカインの刺激により容易に誘導されることがわかった。その結果、子孫作成が予想よりも簡単に行うことができた。
PD-L1の発現制御に関わる分子をさらに探索すると共に、免疫制御に関わる他の分子の発現についても検討を行う。
当初の計画で実験に必要としていたPD-1欠損マウスが病原菌に汚染したために、すぐに実験に取り掛かることが出来なかったため、残額が発生した。そのため別の施設より動物を受け入れており、本年度に実験に着手する予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件)
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