研究課題/領域番号 |
22K19431
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野田 岳志 京都大学, 医生物学研究所, 教授 (00422410)
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研究分担者 |
永樂 元次 京都大学, 医生物学研究所, 教授 (40415097)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | オルガノイド / コロナウイルス / インフルエンザウイルス |
研究実績の概要 |
現在、ヒトの世界に存在するコロナウイルスは、わずか6種類のみである。βコロナウイルス属のHCoV-OC43とHCoV-HKU1、αコロナウイルス属のHCoV-229EとHCoV-NL63の4種類は、ヒトに軽度の風邪(季節性の風邪)を引き起こす。一方、新型コロナウイルス感染症の原因であるSARS-CoV-2と中東呼吸器症候群の原因であるMERS-CoVの2種類は、βコロナウイルス属に属し、ヒトに重篤な呼吸器疾患を引き起こす。 風邪コロナウイルスの研究を行うためには、患者から風邪コロナウイルスを分離し効率よく増殖させる必要がある。これまで様々な培養細胞がウイルス分離に試されてきたが、風邪コロナウイルス(特にHCoV-NL63およびHCoV-HKU1)を効率よく分離培養できる細胞が存在しないという大きな問題があり、研究の進展を妨げている。そこで本研究では、これまでに確立したヒト鼻腔オルガノイド実験系を改変し、風邪コロナウイルスの新たな分離培養法を開発することを目的とした。 本年度はこれまでに開発した3次元のヒト鼻腔オルガノイドの培養方法を改変し、2次元の鼻腔オルガノイドシートの作製方法を開発した。2次元平面培養したヒト鼻腔オルガノイドを用いて、HCoV-229E、HCoV-OC43を感染させたところ、両ウイルスともに増殖することを確認した。さらにHCoV-NL63およびHCoV-HKU1を感染させたところ、両ウイルスともに増殖することが確認された。また、近年ヒトで流行するH3N2インフルエンザウイルスはMDCK細胞で増殖しないことが知られているが、2次元鼻腔オルガノイドではウイルスが増殖することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ヒトの鼻腔上皮は風邪コロナウイルスが増殖する主要部位である。これまでにES細胞からヒト鼻腔オルガノイドの分化誘導法を開発したが、ウイルス感染実験に用いることを考慮し、ヒト鼻腔オルガノイドの2次元培養法を確立した。これらの鼻腔オルガノイドシートを用いて、風邪コロナウイルスの感染実験を行い、これまでに通常の株化培養細胞では培養不可能だったHCoV-HKU1を含むすべての風邪コロナウイルスを培養することに成功した。通常の株化培養細胞で増殖するHCoV-229EやHCoV-OC43も、鼻腔オルガノイドシートで同等の増殖能を示した。これからの結果は、本研究で開発した2次元の鼻腔オルガノイドシートは、風邪コロナウイルスの新たな培養系となることを示しており、今後の風邪コロナウイルスの基礎研究を進展させるものと考えられる。 近年ヒトで流行するH3N2亜型のインフルエンザウイルスは、インフルエンザウイルスの分離培養に用いられるMDCK細胞や鶏卵でほとんど増殖しないことが知られているが、興味深いことに、本鼻腔オルガノイドシートにおいては、H3N2インフルエンザウイルスが増殖することが明らかになった。従って、ヒト鼻腔オルガノイドシートは風邪コロナウイルスだけでなく、さまざまな呼吸器ウイルスの分離培養に用いることができる可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ウイルス研究における本鼻腔オルガノイドシートの有用性を明らかにするため、インフルエンザウイルス(H3N2亜型、H1N1亜型、B/Yamagata系統、B/Victoria系統)や新型コロナウイルス(オミクロン変異株)等、異なるウイルスを用いたウイルス増殖能の解析を行う。また、風邪コロナウイルスの増殖機構を明らかにするため、ヒト鼻腔オルガノイドシートにHCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1をそれぞれ感染させ、数日後に感染オルガノイドを回収後、single cell RNA-seqencingを実施する予定である。各風邪コロナウイルスの感染細胞の同定や、感染細胞における自然免疫応答の違いなどを解析し、風邪コロナウイルスの基礎研究を推進させる。
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