研究課題
HBV病態解析や抗ウイルス剤の開発に必要なマウスモデルを作成することを目標にしている。特にHBVの感染が可能なマウスモデルの開発に注力している。2023年度は、宿主因子側からのアプローチを行った。マウスが、HBVを感染許容しない理由としては、感染受容体NTCPのようにウイルスの生活環を支えるヒト因子がマウス肝細胞には存在しない可能性と、逆にマウスにHBVに対しての強力な抗ウイルス因子が発現している可能性が考えられる。既報論文によると細胞融合の実験等から、後者よりは前者の可能性が高いと考えられている。HBVゲノムをマウス細胞に導入する研究から、マウス肝細胞ではHBVゲノムから遺伝子発現からウイルス粒子の放出までは問題なく観察されるが、核へのcccDNAの形成が見られていないと論文報告されている。ヌクレオキャップシドの核への輸送やさらに脱核後rcDNAの核内放出のプロセスがマウス細胞では起こっていないことが想定された。そこで2023年度は核輸送タンパクがマウス細胞では機能していないと考え、ヒトの肝細胞で発現している核輸送タンパクを候補因子として、マウス肝細胞に強制発現を行った。しかし、残念ながらどの核輸送タンパクもマウス細胞でのHBV複製を支持しなかった。ウイルス因子側のアプローチとしては、サロゲートウイルスであるD型肝炎ウイルスをマウスで感染実験するためのプラットフォームも準備中である(HBVサロゲート感染モデルの構築)。関連してヒトNTCPトランスジェニックも順当に系統の樹立が進んだ。
2: おおむね順調に進展している
現時点では、まだマウス肝細胞にHBV感染性を付与する因子は同定できていないが、HBVサロゲート感染動物モデルの構築は順当に進んでいる。少なくと、HDVウイルスをマウスに感染させることに成功しており、またその感染はNTCP依存的HDV/HBV阻害剤であるMyrculdex B で阻害可能であることを確認している。このサロゲートモデルで、創薬の評価の構築やHBV/HDV重複感染モデルにおける病態研究が可能になることを期待する。
マウスにHBV感染能力を付与する因子の探索は、培養細胞の系を中心に引き続き継続する。一方、マウスモデルは、創薬標的や病態解析はトランスジェニックやHBVレプリコンモデル、サロゲートウイルス(HDV)で着実に成果が上がっているので着実に進める。
4月初頭に発表のための共同研究打ち合わせのための出張と共同研究を予定し、そのための費用を予定していたが、その共同研究が、有効性が期待できないことが判明し、取りやめにした結果、次年度持ち越しが増えた。
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