研究課題/領域番号 |
22K19456
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井上 正宏 京都大学, 医学研究科, 特定教授 (10342990)
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研究分担者 |
小沼 邦重 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (90597890)
青木 正博 愛知県がんセンター(研究所), がん病態生理学分野, 副所長兼分野長 (60362464)
近藤 純平 大阪大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (80624593)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | 大腸癌 / 細胞塊 / 免疫回避 / 極性 |
研究実績の概要 |
本研究では、大腸がん細胞集団の「極性」という新たな視点から、免疫回避のメカニズムを明らかにすることを目的とする。我々はこれまでに、分化型腺がん細胞塊は、apical 面ががん細胞塊内の管腔側に存在する状態(apical-in)と、がん細胞塊外周に存在する状態(apical-out)が速やかに転換することを明らかにした。本研究では、血管内に浸潤したapical-outのがん細胞塊は免疫を回避するとの仮説のもと、apical-outの極性状態が免疫細胞の機能に及ぼす影響およびそのメカニズムを明らかにする。 課題1:共培養系での免疫応答の検討。異なる極性状態にある大腸がん細胞塊に対する免疫細胞の活性化あるいは細胞傷害性を比較検討した。C57BL/6の腹腔内に異物を移入することで惹起した炎症によって誘導された腹腔滲出細胞を回収した。apical-inの極性状態は、マクロファージ様細胞株(RAW264)のみならず、腹腔滲出細胞の活性化にも関与し、逆にapical-outの極性状態は不活性化あるいは無反応であることを明らかにした。課題2:免疫応答回避のメカニズムの検討。ムコ多糖類によるがん細胞塊と免疫細胞の接着の回避:がん細胞塊のapical面は、抗原を覆うムコ多糖類が防御壁となり、免疫細胞からの攻撃を回避している可能性がある。そこで、apical-outオルガノイドのムコ多糖類の検出を試みた。apical-inのムコ多糖類は検出可能であったが、apical-outを覆うようなムコ多糖類は検出されなかった。課題3:マウス大腸がんモデルによるin vivoでの検証。In vivoで宿主応答を解析するために、共同研究者の青木らの開発した、自然発がんマウス大腸がんからオルガノイドを作製し、ヒト大腸がんオルガノイドと同様に極性転換することを確認した。さらに肝転移モデルの作製に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
樹立細胞株だけでなく、好中球を主体とする生体の浸出液でもApical面の免疫抑制作用が確認できたことは大きな進捗である。Apical面に発現する免疫制御分子の量および局在を免疫組織化学染色によって検討する計画であるが、これまでに各種抗体の条件検討を行っており、終了次第特にマクロファージと好中球を対象とした解析に入る。Apical面に放出されるROSについては、まず既に作製済みのヒト大腸癌NOX1ノックダウン細胞を用いて検討を行い、さらに自然発がんマウス大腸がんから作製したオルガノイドでも同様のことが起こるか検討する予定である。共同研究者の青木らの作製した自然発がんマウス大腸がんから作製したオルガノイドを移入し、ヒト大腸がんと同様に極性転換することを明らかにしたことは、大きな進捗である。現時点では同系マウスへの移植腫瘍の作製に手間取っているが、青木らはこれを既に論文報告していることから、実現可能と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
マクロファージ様細胞株(RAW264)および好中球を主体とする腹腔内滲出細胞の両者にapical-outオルガノイドが抑制性に働くことが明らかになったので、それらの免疫担当細胞に対する抑制メカニズムの解析を進める。がん細胞塊の培養液中では、apical-outのROS量がapical-inと比較して有意に高いことから、apical-out状態のがん細胞塊が外側に放出するROSが、免疫回避に関与している可能性がある。これまでに作製したNOX1発現を抑制したapical-out状態のがん細胞塊を用いて、免疫細胞との共培養系で、免疫細胞の活性化およびがん細胞塊の細胞傷害性を検討する。ムコ多糖類によるがん細胞塊と免疫細胞の接着の回避については、Apical-outの極性状態のがん細胞塊で、外側のムコ多糖類を中心とする粘液成分の検出ができなかったことから、Apical-outとapical-inのapical面は質的に異なる可能性がある。上述のROSの関与を含め、機能的にNAC処理により免疫細胞への影響が回避されるかどうか検討する。自然発がんマウス大腸がんから作製したオルガノイドが、ヒト大腸がんオルガノイドと同様に極性転換することを確認したので、同系マウスおよび免疫不全マウスにおける肝転移モデルでの転移能の違いを評価することで、獲得免疫の関与の有無を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
Apical面に発現する免疫制御分子の量および局在を免疫組織化学染色によって検討する計画で、各種抗体の条件検討に時間がかかっている。また、自然発がんマウス大腸がんから作製したオルガノイドをマウスに移植するモデルの作製に時間がかかっており、これらの本格的な解析を年度内に終了することができなかったため、次年度に使用額を繰り越した。これにより、予定通り免疫染色やマウスモデルでの検証を進める。候補遺伝子を絞り込めた場合は、当該遺伝子の遺伝子操作を行い、免疫細胞の網羅的遺伝子発現解析を行う予定である。
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