食道がんは男性において7番目に多く、男女併せて年間約1万人強が死亡している。これまでの研究により、正常食道上皮は加齢や食道がんリスク因子への暴露によりがんドライバー変異クローンによって再構築されることが判明したが、正常上皮から異型上皮への形質転換メカニズムについては未だ詳細は不明である。本研究では微小検体採取技術とゲノム・トランスクリプトーム同時解析技術を用いて、発がん最初期におけるヒト食道上皮細胞の形質転換メカニズムを解明し、食道がんの発がん予防や発症前治療の開発に資する知見を得ることを目的としている。 研究2年目である2023年度は上部消化管内視鏡検査をうける患者より同意を得た上で食道粘膜を通常の生検法で採取した。採取した食道粘膜は核酸に影響がないアルコールベースの固定液により固定し、パラフィン包埋を行った。10um厚の切片を作成し、核酸に影響が少ない変法HE染色を行い、病理学的評価を行った上で異型上皮とその周辺の非異型上皮を採取した。細胞溶解液に含まれているDNA・RNAを用いて網羅的ゲノム・トランスクリプトーム解析を行うことにより、形質転換を制御するメカニズムを解析した。ゲノム解析では、ドライバー変異および染色体コピー数異常に着目して解析したところ、たとえ正常組織であってもTP53遺伝子を含む食道がんドライバー遺伝子に高頻度に遺伝子変異が見られること、ルゴール不染体においてはTP53遺伝子変異の頻度が高くなること、さらに、組織学的に異型性を伴うと細胞周期関連の遺伝子に変異、コピー数増幅を伴うようになることが明らかとなった。このほか、異型性に伴って食道がんで高頻度に観察される染色体コピー数異常が蓄積することが明らかとなり、遺伝子変異に加えて染色体コピー数異常も食道発がんのごく初期から蓄積することが明らかとなった。
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