研究課題/領域番号 |
22K19469
|
研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
清宮 啓之 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター 分子生物治療研究部, 部長 (50280623)
|
研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
|
キーワード | グアニン四重鎖 / 翻訳制御 / 抗悪性腫瘍薬 / 薬剤反応性 / 効果予測バイオマーカー |
研究実績の概要 |
テロメアに代表されるグアニンリッチな塩基配列は、グアニン四重鎖(G4)という高次構造を形成する。G4はがん関連遺伝子のプロモーター領域や5’非翻訳領域にも多く存在する。本研究は、G4リガンドと呼ばれるG4安定化化合物でがん細胞内のG4を安定化したときに観察される、細胞特異的脆弱性の分子基盤を明らかにすることを目的として、以下の検討を行った。 (1)G4安定化によるゲノムワイドな翻訳抑制の標的特異性 我々は、様々なヒト臓器由来のがん細胞株50種を用いた準備検討により、母核構造の異なる複数のG4リガンド(テロメスタチンやPhen-DC3など)に強い感受性を示すがん細胞11株を臓器横断的に同定している。うち6株はリガンドによる複製ストレス・DNA損傷応答を示さず、DNAのみならずRNAもG4リガンドの標的となることが示唆された。そこで今回、G4リガンドで処理したG4リガンド超感受性がん細胞株のトランスクリプトーム・プロテオーム複合解析を実施した。その結果、G4リガンドによって減少するタンパク質は、遺伝子センス鎖の5’非翻訳領域におけるG4形成配列密度が高いことが見出された。実際にこれらのRNA上のG4形成配列部位における翻訳効率がどのように変化しているかを明らかにするため、Ribo-seq解析に着手した。 (2)G4安定化ががん細胞の生存・増殖システムを破綻に導く分子機構 上記オミクス解析で同定された、G4リガンド処理で減少するタンパク質群の遺伝子オントロジー(GO)解析を行った。その結果、翻訳やリボソーム生合成などのGOタームが上位に描出された。これらのことから、G4リガンドは翻訳関連因子そのものの翻訳を抑制することで、最終的にタンパク質の生合成全体を抑制する可能性が示唆された。事実、G4リガンドを処理したがん細胞株では、タンパク質生合成の抑制が時間依存的なかたちで観察された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RNA G4の安定化はタンパク質翻訳を抑制すると予想されたが、今回の結果はこの作業仮説を支持するものであった。我々はすでに試験管および細胞レベルにおいて、遺伝子配列のセンス鎖にG4形成配列を有するレポーター遺伝子のタンパク質への翻訳がG4リガンドによって抑制されることを確認している。今回の知見は、この現象がゲノムワイドに生じていることを示している。
|
今後の研究の推進方策 |
翻訳が停止する標的mRNAを網羅的に同定するとともに、翻訳停止領域におけるG4形成配列密度を評価することで、G4安定化によるゲノムワイドな翻訳抑制の標的特異性を明らかにする。一方、描出されたパスウェイ上の基幹因子を選別し、ゲノム編集・RNA干渉もしくは過剰発現などで当該因子に機能修飾を加え、機能抑制により細胞増殖が阻害されるか、機能亢進によりG4リガンド耐性が誘導されるかなどを調べる。さらに、当該因子の発現様態および細胞要求性(cell dependency)をG4リガンド超感受性がん細胞株と耐性がん細胞株で比較することで、G4リガンドに対する超感受性を規定する分子基盤を明らかにしたい。実験がうまく進まない場合のバックアップとして、G4リガンド感受性規定因子の直接同定を目指した検討も進める。
|