細胞の相互封入の一形態であるエントーシスについて解析するため、他のがん腫と比較して高頻度にエントーシスを誘導する中皮腫細胞株を用いてエントーシス誘導解析に最適な条件を検討した。高頻度に誘導するだけでなく、その形態変化の観察が容易で長期間の生細胞解析が可能な細胞株を選定し、エントーシスが起きる際の2細胞間の比較観察を行うためにLifeact-GFP/Lifeact-mRuby2発現細胞を樹立した。次に、エントーシスによる細胞相互封入においてOuter(外側)/Inner(内側)をそれぞれ分離・濃縮して細胞内反応を調べるため、当初予定していた組み換えタンパク質を発現させたが、想定外の分解反応により実験の継続が困難となった。 そこで本年度は、新たにセルソーティングや細胞株のサブクローニングを行い、各細胞株の組み合わせについて再検討した。その結果、エントーシスによる細胞相互封入においてOuter(外側)/Inner(内側)の片側に9割以上の高頻度で封入される2対の細胞株選別することに成功した。これら2対の細胞株からRNAを抽出してRNA-seq解析を行い発現量に差のある遺伝子を同定した。この遺伝子を解析したところ、異所性発現によりエントーシスが誘導され、反対に発現抑制によりエントーシスが抑制されることが明らかとなった。さらにエントーシスにおける細胞内反応について解析するため、2対の細胞株をそれぞれ異なる非放射性同位体アミノ酸を含む培養液中で培養し、細胞内タンパク質の標識を行った。これらの細胞株を用いてエントーシスを誘導し、惹起される細胞内反応を検出するためリン酸化プロテオーム解析を行ったところ、Outer(外側)/Inner(内側)それぞれにおいて異なる反応が起きていることが明らかとなった。本研究によりエントーシス誘導に関わる新たな分子機構が明らかとなった。
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