研究課題
加齢に伴い末梢血T細胞において蓄積される遺伝子変異を同定し、これらの変異遺伝子を野生型T細胞に付加することにより、その長期生存能を高め、同細胞から作製される抗腫瘍T細胞が持続的な治療効果を誘導できるという仮説を立て、研究を進めている。本研究計画では、本年度は、末梢血T細胞における加齢に伴う遺伝子変異を検出し、加齢に伴う遺伝子変異(群)が正常T細胞機能の長期生存能に寄与するか否かを解析した。健常人T細胞をCD34やCD38などの細胞表面マーカーなどで分画し、低頻度のアレル頻度ながら認められるゲノム異常の検出に成功した。これらの濃縮により、変異頻度(VAF)の増加が認められ、低頻度ながら正常末梢血中の遺伝子変異の検出に成功した。しかしながら、より多くの細胞表面マーカーを活用することで更なる変異頻度の増加が認められるケースも散見されており、現在、信頼性と効率面で優れた分画プロトコールの確立に向けて条件検討中である。加齢性クローン造血に好発する遺伝子変異として有名なTET2遺伝子やDNMT3A遺伝子をノックアウトさせたCAR-T細胞は、期待通り、顕著な分化障害による未分化性の亢進が認められた。新規の遺伝子変異として、低頻度ながら変異が認められたDUSP22について、CAR-T細胞の機能解析を行った。その結果、DUSP22-KO CAR-T細胞は、増殖能の増加が認められた。しかしながらT細胞分化、サイトカイン産生、グランザイムBなどの細胞障害性因子の産生に影響が認められなかった。現在、DUSP22以外の新規の加齢性クローン造血関連遺伝子変異を対象に、CAR-T細胞の機能解析(分化障害、サイトカイン産生、細胞障害性、細胞増殖)を検証している。
2: おおむね順調に進展している
当初の目的である正常末梢血において低頻度に生じている遺伝子変異の検出について、細胞表面マーカーを持ちた分画を活用することで、一定の成果が認められた。また検出されたDUSP22について機能解析を完了させた。DUSP22 KO CAR-T細胞は、期待していた効果が認められなかったものの、低頻度の変異検出系の確立と、機能解析系の確立に成功した。
今年度着目したDUSP22以外の新規の加齢性クローン造血関連遺伝子変異を対象に、CAR-T細胞の機能解析(分化障害、サイトカイン産生、細胞障害性、細胞増殖)を行う。in vitroの実験系で有望な結果が得られた遺伝子変異については、in vivoでの機能解析を行う計画である。
低頻度の変異解析系の確立が予想よりも容易に完了したため、本年度の当初計画よりも支出額を必要としなかった。来年度、機能解析のための免疫不全マウスなどが必要となるため、残額を活用する予定である。
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