ヒトゲノム上には合計20万個以上のイントロンが含まれている。正常細胞では各遺伝子のpre-mRNAスプライシングの過程で選択的にイントロン配列が除去されるが、エクソン領域に比して種間での保存性に乏しいことが知られている。しかし、全イントロンのわずか0.3%(700個程度)は、進化的に保存された極めて特徴的な分岐点配列や5′配列を有しており、それらは細胞の生存や恒常性の維持において不可欠な遺伝子のみに通常一つ含まれている。このような特殊イントロンは数の少なさから「マイナーイントロン」と呼ばれ、通常のイントロンとは異なる機構で除去される。本研究では、マイナーイントロンとがんとの関連や、進化的に保存されてきた意義についての探索をこころみた。血液がんにおいて、この希少イントロンの除去に必要なRNA結合タンパクであるZRSR2遺伝子には男性患者に限って変異が認められ、その変異細胞においては、マイナーイントロンがmRNAに残存し、Nonsense-mediated mRNA decay(NMD)によって発現低下すると予想された。そこで、マイナーイントロンの脱制御機構と発がんとの関連をゲノム、RNAレベルでCRISPRスクリーニング技術を用いて検討し、新規RAS経路活性化機構を発見した。さらに、がん抑制遺伝子として研究が進められてきたPten遺伝子のマイナーイントロンをゲノムから除去したマウスモデルを作成し、造血幹細胞の機能を評価したところ、体外培養や移植モデルなどストレス下において幹細胞性の維持が困難となることが明らかとなった。またマイナーイントロン欠失モデルではPtenのmRNA発現量においても、対照群に比べて有意な上昇が認められ、マイナーイントロンを介した転写後制御機構の存在が示唆された。これらの結果は進化的に保存されてきたマイナーイントロンの存在意義に焦点を当てるものである。
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