研究課題/領域番号 |
22K19476
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田中 真樹 北海道大学, 医学研究院, 教授 (90301887)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | 作業記憶 / 中央実行系 / 消去 / n-back / 前頭連合野 / 眼球運動 / 非ヒト霊長類 |
研究実績の概要 |
作業記憶は前頭連合野を主座とし、記憶を貯蔵する下位システムと情報の統合・操作を行う中央実行系に分けられる。短期記憶の神経表象は遅延期間中の持続的な活動として古くから報告があるが、記憶を更新・消去する際に前頭連合野ニューロンがどのような活動を示すのか明らかではない。本研究では、サルに眼球運動を用いたn-back課題を訓練し、これを調べる。また、記憶の更新に関わる脳部位の電気刺激を行い、n-back課題中の忘却を生じさせることを試みる。
実験に用いているn-back課題ではサルが画面中央の固視点を見ている間に、短い遅延期間をはさんで周辺視野に手がかり刺激を次々に提示する。固視点の形が▲または×の場合は、固視点が消えた後に直前の手がかり刺激の場所に向かって眼を動かすと報酬が与えられる(1-back条件)。固視点が◆または☆の場合は、ふたつ前の手がかり刺激の場所が正解となる(2-back条件)。前者の条件ではサルは最新の手がかり刺激の場所のみを覚えておけばよいが、後者の条件では連続した2か所の記憶を順にアップデートする必要がある。
令和4年度末までに3頭のサルの外側前頭前野から150個を超える課題に関連したニューロンを記録している。また2頭の記録部位に微小電気刺激を行い、サルの行動への変化を調べている。これらのデータの一部については、令和4年度に学会発表することができた。今後は実験を継続しながらさらなる解析を進めるとともに、論文発表に向けた準備に着手する。また、これまでの実験に加えて新たに記録部位の不活化の影響を調べるとともに、多点電極を刺入して局所場電位(LFP)の記録を行うことを予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和3年度に申請書提出した後も研究を継続し、令和4年度末までに3頭の個体から多くの課題関連活動を示すニューロンを前頭連合野から記録している。これらのデータを解析し、その成果を日本神経科学学会と北米神経科学学会でポスター発表することができた。電気刺激実験もすでに2頭で行い、2-back条件で1-backするエラーを誘発することに成功している。今後はこれらのデータをより詳しく解析するとともに、論文作成に向けた準備を進める。一方、多点電極の利用と不活化実験は遅れており、引き続きこれを進める。多点電極については最近導入をはじめ、今後はLFP記録を中心に行うことを予定している。
なお、令和4年度には本研究と関連の深い視覚探索課題を用いた薬理学実験の成果を論文発表することができた。
これらの状況から、本研究は予定していた以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる令和5年度は、これまでに蓄積した単一ニューロン記録と電気刺激実験のデータの定量解析を進めるとともに、論文作成にとりかかる。これと並行して、令和4度中に導入を始めた多点電極による課題中のLFP記録を行い、その解析を行う。現在は誘発成分をみているだけであるが、今後は各周波数成分に主眼をおいた解析を行うことを予定している。また、記録部位の不活化実験の準備も進める。今春から研究生となった留学生の本研究への参加を見込んでいる。
令和5年度は対面で行われる学会や研究会も多く予定されており、これらに参加して情報収集をおこなうとともに、適宜進捗報告を行ってフィードバックを得ながら研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた多点電極の導入が遅れたため、これを購入するための資金の一部を次年度に繰り越した。
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