本研究では、光学顕微鏡で比較的簡便に組織の微細構造を解析できる膨張試料顕微鏡法を用いて、カルシウムイメージングから得られる「活動」に関する情報とコネクトミクスから得られる「構造」に関する情報を統合し、システム全体の作動機構を明らかにすることを目的とし、ショウジョウバエ幼虫をモデルとした研究を行った。本年度は、1)幼虫の中枢神経系の神経伝達物質の分布を、膨張試料顕微鏡法を用いて高解像度で可視化し、2)光変換カルシウムセンサーCaMPARI2と膨張試料顕微鏡法を組み合わせることで、特定の行動時に活動していた神経細胞の微細構造を可視化した。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果としては、幼虫中枢神経系に膨張試料顕微鏡法を適用することで100 nm程度の分解能を達成することができ、全神経細胞を染色したサンプルから単一の軸索・シナプスの構造を撮影することが可能になった。さらに、少数の神経細胞群と全神経細胞の二重染色を行うことで、特定の細胞種が形成する軸索の束をいくつか同定した。これにより、コネクトミクス解析との統合に必要なサンプル間の構造比較のための参照点が得られた。さらに、幼虫中枢神経系の神経伝達物質の分布を膨張試料顕微鏡法によって高解像度で撮影することで各シナプスの符号を知ることが可能になり、固定サンプルの解剖学的な特徴から情報処理様式を考察することが可能になった。また、光変換カルシウムセンサーCaMPARI2と膨張試料顕微鏡法を組み合わせることで、神経系の微細構造と活動強度を関連づけることが可能となった。以上の研究により、膨張試料顕微鏡法を用いた神経系の微細構造解析の技術を確立し、構造と神経活動を関連づける基盤を構築することができた。
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