研究課題/領域番号 |
22K19483
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
水関 健司 大阪公立大学, 大学院医学研究科, 教授 (80344448)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | 海馬 / 扁桃体 / 前頭前野 / 記憶 / レム睡眠 / ノンレム睡眠 / セルアセンブリ / 発火頻度 |
研究実績の概要 |
記憶には複数の脳領域が関与し、各脳領域において同期して活動する神経細胞の集団(セルアセンブリ)が関わる。しかし、「セルアセンブリは領域を跨いでどのように相互作用して記憶の一連の過程に関わるか」という根本的な問いは未解明である。この状況を打開するため、我々は多脳領域同時・大規模電気生理学計測と恐怖条件付け学習を組み合わせる技術を開発した。この技術を用いて、恐怖条件付け学習による恐怖記憶の形成前から消去後まで連続して海馬・扁桃体・前頭前野の神経活動を記録した大規模なデータを数理的に解析し、恐怖記憶を支える脳領域横断的なセルアセンブリ相互作用の時空間ダイナミクスを明らかにすることを目指した。まず、記憶の形成時(恐怖条件付け学習時)や想起時に、非条件刺激、条件刺激、立ちすくみ反応を表現する神経細胞群を同定した。次に、それらの細胞群が記憶の固定化に重要と考えられている睡眠時にどのように活動するかを調べた。その結果、海馬・扁桃体・前頭前野において、多くの細胞がレム睡眠中またはノンレム睡眠中に活動が亢進すること、レム睡眠中に活動が亢進する細胞とノンレム睡眠中に活動が亢進する細胞では、記憶の形成時と想起時の反応や、高周波の脳波による活動の変調に有意な差があることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
恐怖条件付け学習による恐怖記憶の形成前から消去後まで連続して、海馬・扁桃体・前頭前野の神経活動を記録した大規模なデータを数理的に解析した。その結果、海馬・扁桃体・前頭前野において、多くの細胞がレム睡眠中またはノンレム睡眠中に有意に活動が亢進すること、レム睡眠中に活動が亢進する細胞とノンレム睡眠中に活動が亢進する細胞では、記憶の形成時と想起時の反応や、高周波の脳波による活動の変調に有意な差があることを見出した。さらに、恐怖記憶の形成前から消去後まで連続して観察できる新規行動実験の予備実験を行った。これらの成果は、記憶の定着に重要な睡眠中の活動と記憶情報の表現様式との相関を示唆するものであり、研究がおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
海馬・扁桃体・前頭前野に存在する、レム睡眠中に活動が亢進する神経細胞群とノンレム睡眠中に活動が亢進する神経細胞群が、睡眠中ならびに記憶の形成時や想起時に、どのように脳領域横断的に相互作用するかを調べる。具体的には、相互相関関数を使って細胞集団間の活動の相関を解析し、細胞集団同士の脳領域を跨いだ同期活動が学習の過程でどのように変化するかを調べる。さらに、海馬・扁桃体・前頭前野の脳波と細胞集団の活動の相関を発火位相相関・相互相関関数を用いて調べ、細胞集団間の相互作用の様式を明らかにする。特に記憶の過程や領域の組み合わせによって、細胞集団間の相関や、ネットワークオシレーションと細胞集団の同期活動の相関が変化する様子を精査する。さらに、恐怖記憶の形成前から消去後まで連続して観察できる新規行動実験を用いて、恐怖記憶を支えるセルアセンブリの脳領域横断的な相互作用の時空間ダイナミクスの解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は新規行動実験の立ち上げに時間がかかったことでシリコンプローブの使用が想定より少なかったことと、購入を予定していた新型シリコンプローブの納期が遅くて年度末に間に合わないことが判明し2023年度に購入することにしたため、次年度使用額が生じた。2023年度は、次年度使用額で2022年度に購入する予定であった新型シリコンプローブを購入し、2023年度分として請求した助成金は当初の計画通り使用して研究を推進する予定である。
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