研究課題/領域番号 |
22K19495
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
飯島 崇利 東海大学, 医学部, 准教授 (90383702)
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研究分担者 |
飯島 陽子 東海大学, 医学部, 特定研究員 (50451860)
モハメド ダルウィシュ 東海大学, 医学部, 奨励研究員 (60938934)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 自閉スペクトラム症 / 大脳皮質 / 抑制性ニューロンサブタイプ / 細胞移植 |
研究実績の概要 |
大脳皮質抑制性介在ニューロンの形態的、機能的多様性は、脳の高度な機能発現にとって極めて重要である一方で、多様な抑制性ニューロンサブタイプへの分化の仕組みは非常に複雑である。 ASDモデルを始め複数の発達障害や精神疾患において報告されている表現型の多くは抑制性入力の減少であり、これに由来する神経活動のインバランスである。また癲癇をはじめとして、抑制性ニューロン回路の異常を起因とする他の発達障害や精神疾患も多いとされることから、抑制性ニューロン回路の異常は複数の発達障害や精神疾患発症の病態のキーであり、げっ歯類における特定ニューロンサブタイプへの分化の理解は、今後の医療の重要な基盤となりうる。しかしながら、ES、iPS細胞を用いた分化誘導法の開発が世界的に進むなかでも、哺乳類における多様なニューロンサブタイプそれぞれへの分化誘導の確立は今後の大きな課題と言える。また、発達脳で抑制性ニューロンを補うことの有効性を今後の研究で検討することは大変興味深く、本課題はその開拓的な研究アプローチの一つになると信じる。 重要なことに、近年我々は細胞運命決定に関わる細胞間シグナル伝達経路である時空間的エピジェネティック制御により、胎生後期に発生する特定抑制性ニューロンサブタイプを選択的に分化誘導できることを見出してきた(未発表データ)。本研究課題では、さらにこの知見を手掛かりとして、第一に神経前駆細胞の単離から特定ニューロンサブタイプへ効率的に分化させる手法を確立すること、第二に、この手法を用いて分化誘導をかけた細胞を、抑制性ニューロンサブタイプの減少を病態とする自閉スペクトラム症 (ASD) モデルの新生仔マウス脳へ移植し、特定ニューロン細胞移植による発達障害の新たな治療戦略の確立を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは、幼若終脳培養神経細胞にASDリスクファクターとして知られるバルプロ酸(VPA) を直接曝露したin vitro ASDモデルを確立し、多角的アプローチによりこのモデルの分子病態について検討を行ってきた(Iijima et al., 2016)。このモデルは実験データの均一性、再現性の点において優れており、他の多くのASD動物モデルで報告されてきた抑制性シナプスの機能低下などの生理学的表現型をin vitroレベルにおいても明確に再現できることを確認してきた。そこで近年、in vitro ASDモデルで有意に変動してくる遺伝子群をエキソンアレイとRNA-seqで網羅的に解析した。その結果、胎生期にVPAもしくは二本鎖RNAウイルス感染を模倣した代表的ASDマウスモデルの成熟脳において VIP陽性CGE由来抑制性ニューロン数が顕著に減少していることを突き止めた。 ASDモデルにおける抑制性機能異常は過去にも多くの報告があるが、特定の抑制性ニューロンのサブタイプの顕著な減少は、ASD研究の報告にない新たな病態である。申請者はこの異常に焦点を当て、CGE由来抑制性ニューロンの発生とin vitroおよびin vivoの分化誘導の方法について検討してきた。その結果、CGE由来の細胞は採取のタイミングによってエンリッチできること(Sato et al., 2022)、この分化誘導は薬理学的かつゲノム編集操作による時空間的なエピジェネティック制御によって可能であることをin vitroにおいて見出している。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、細胞生物学的なアッセイ系に関しては順調ではあるが、現在このエンリッチしたCGE由来細胞をどのようなタイミングで、かつどのようにin vivoに導入するかをもう少し検討していく必要があり、今後細胞移植を目指すという計画上では、やや遅れをとる懸念も出てきた。具体的な問題例としては、当初の計画ではVipプロモーター下でGFPを発現するトランスジェニック系統を用いてFACSによる細胞選別を予定していたが、胎生期ではVipプロモーターがほとんど働かないことが判明したため、これに対しては現在Htr3aプロモーターもしくはProx1プロモーターに変更し検討を行う。 FACSによる細胞選別はBD rhapsodyを用いて行なっているが、昨年度我々はこのセルソータを用いて出生2日目のASDモデルマウス大脳皮質組織のシングルセルRNA-seq解析も同時に行なった。ASDモデルで抑制性ニューロンの前駆体のクラスターの一部の減少傾向がはっきり認められていることから、これまで我々が独自で見出してきた細胞レベルの異常所見がシングルセルレベルにおいても裏付けられつつあり、今後は成熟脳でのシングルセル解析によって分化後の抑制性ニューロンサブタイプの異常について検証していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
上述のように、計画していたマウス系統が細胞選別にうまく使用できず、別系統のマウスに変更する必要があり中止した。しかしながら、CGE領域でGFPを発現するマウス系統が現在購入できておらず、そのために用意されていた動物飼育管理費を次年度に繰り越すことにしたため。
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