腸炎はヒトが生活する中で、最も頻繁に経験する炎症反応の一つである。腸は外界とつながる臓器であり、常に様々な刺激にさらされ、細菌やウイルス、有害物質などの非自己による炎症反応が活発に生じる。これらの外的因子だけでなく、原因不明の炎症性腸疾患も増加の一途をたどっている。腸で生じる炎症は、腸管の部位特異性を認めることがあり、特に炎症性腸疾患では、病変部位は診断に重要であり、潰瘍性大腸炎は大腸で炎症を認め、クローン病では消化管全体で炎症が生じることが知られている。しかし、なぜこのような部位特異性を認めるか不明である。本研究では、血管研究を通じて、大腸と小腸における部位特異的炎症制御機構を解明することを目的として研究を行う。 本研究を通じて小腸と大腸の血管、免疫細胞、間質細胞の分布パターンを組織学的に明らかにした。その上で、小腸と大腸で異なる表現型を示す2種類のノックアウトマウス解析を行った。既に論文報告した血管内皮細胞特異的TAK1マウスでは、タモキシフェン投与後11日以内に、全てのマウスが消化管出血を伴って死に至る。本マウスでは小腸では粘膜出血、血管の破壊が生じるが、大腸では生じない。新たな血管内皮細胞特異的ノックアウトマウスではタモキシフェン投与後21日以内に、全てのマウスが同様の表現型で死に至る。特に回腸末端部で症状が著明であった。その分子機序としては、あるサイトカンが関係していることがわかった。そのサイトカインによりCD11c陽性細胞が活性化され、炎症を惹起する。本サイトカインを標的とすることで小腸の炎症を制御できる可能性が考えられる。
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