研究課題/領域番号 |
22K19524
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
菅波 孝祥 名古屋大学, 環境医学研究所, 教授 (50343752)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | マクロファージ / 糖脂質 / 急性腎障害 |
研究実績の概要 |
我々の体内では、毎日数千億個の予めプログラムされた細胞死(アポトーシス)が生じ、マクロファージ等の貪食細胞により処理されている。一方、ネクローシス型の細胞死は、細胞死に伴って細胞内成分を細胞外に放出することで周囲の免疫細胞に炎症を惹起する。近年、新しい細胞死の様式が次々と報告され、炎症慢性化における意義が注目されているが、死細胞側の細胞内代謝については注意が払われてこなかった。研究代表者はこれまでに、マクロファージに発現する自然免疫センサーMincleが、急性腎障害における壊死尿細管を感知して炎症慢性化に働き、腎萎縮をもたらすことを見出した。この時、壊死尿細管にβ-グルコシルセラミド(β-GlcCer)が過剰に蓄積し、内因性リガンドとしてMincleを活性化することで炎症慢性化に働くことを報告した。本研究では、死にゆく細胞において脂質代謝がどのように変容してβ-GlcCerが蓄積するのかを解明し、炎症慢性化における意義を明らかにする。昨年度に引き続き本年度も、β-GlcCer代謝酵素Aに着目して検討を行った。Cre-loxPシステムを用いて、時期特異的に近位尿細管上皮細胞において代謝酵素Aを欠損する遺伝子改変マウスを新たに作出した。本マウスにより、代謝酵素Aが腎臓において近位尿細管上皮細胞に特異的に発現すること、代謝酵素Aを欠損することで多数の代謝酵素により制御されるβ-GlcCerが蓄積することなどを見出した。現在、本マウスに対して急性腎障害モデルを作製し、腎障害に及ぼす影響を検討している。また、野生型マウスに種々の急性腎障害モデルを作製し、代謝酵素Aの発現変化とβ-GlcCer蓄積量の相関を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように、Cre-loxPシステムを用いて、時期特異的に近位尿細管上皮細胞において代謝酵素Aを欠損する遺伝子改変マウスの作出に成功した。β-GlcCerは生体に必須の糖脂質のため、すべての細胞に存在するとともに、多数の代謝酵素が存在して、複雑に制御されている。その中で、代謝酵素Aを時期特異的に欠損する本マウスを用いることで、近位尿細管上皮細胞の代謝酵素Aが腎臓全体のβ-GlcCer量の制御に中心的な役割を担うことが初めて明らかになった。このことは、腎臓全体から脂質を抽出して薄層クロマトグラフィで解析したことに加えて、LC-MS解析や質量分析イメージングなど複数の解析手法で確認した。また、網羅的な質量分析解析を行うことで、代謝酵素Aを欠損すると、単にβ-GlcCerにとどまらず、グロボ系糖脂質など多彩な糖脂質に変化が及ぶことを見出した。さらに、質量分析イメージング解析を実施することで、このような糖脂質の変化が近位尿細管上皮細胞において生じていることを確認した。以上より、本研究は現在まで順調に進捗していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに、代謝酵素Aの遺伝子改変マウスの作出に成功し、正常状態における代謝酵素Aの意義を明らかにすることができた。現在、本マウスに対して種々の急性腎障害モデルを作製しており、腎障害の程度や遷延化に及ぼす影響を検討している。本研究の契機となった虚血再灌流障害モデルに加えて、葉酸負荷、シスプラチン負荷などの急性尿細管壊死モデルを予定している。これらは急性腎障害の誘導機序が異なるが、近位尿細管上皮細胞が障害を受ける点で一致しており、代謝酵素Aの発現低下が共通に認められるかどうかを検証する予定である。代謝酵素Aの欠損マウスで急性腎障害を作製し、表現型に変化を確認できた場合は、網羅的な質量分析解析や質量分析イメージングを駆使して、糖脂質代謝変容の全貌を明らかにする。また、本マウスに対してMincle欠損マウスの骨髄移植を実施し、急性腎障害における表現型のどの部分がMincleを介するかを明らかにする。従来、DAMPsの同定やDAMPs産生制御機構に関する報告はほとんどなかったため、本マウスの解析により全く新しい知見が得られるものと期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
代謝酵素Aの遺伝子改変マウスを作出したが、その繁殖に時間がかかっており、次年度に多数のマウスを用いて腎障害モデルを作製、解析する必要がある。そのため、予算の一部を次年度に繰り越している。
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