MLL-AF4転座を有するBリンパ性白血病は、最も頻度の高い小児がんである。ホメオボックス転写因子HOXA9の発現が高いHOXA9型と、IRX1の発現が高いIRX1型の2タイプあり、HOXA9型は年長児および成人に多く、IRX1型は乳児にしか認められない。また、IRX1型のMLL-AF4白血病は予後不良で、臨床上の大きな問題となっている。申請者は最近、ヒト臍帯血CD34+細胞にMLL-AF4を導入して免疫不全マウスに移植するという手法を用いて、IRX1型およびHOXA9型のMLL-AF4白血病モデルの作製に成功した。本研究では、IRX1型およびHOXA9型のMLL-AF4白血病細胞を用いてsingle cell RNA-seqを行い、IRX1型、HOX型に特徴的な遺伝子発現パターンを明らかにした。特にIRX1型では幹細胞関連遺伝子の発現が上昇しており、IRX1型乳児白血病の発症起源が未分化な幹細胞であることが示唆された。この成果は、今後MLL-AF4転座を有する乳児白血病に対する治療戦略を構築する上で、基盤となる成果である。 さらに本研究では、MLL転座型骨髄性白血病、RUNX1-ETO転座を持つ骨髄性白血病、およびTP53変異とERG高発現で誘導される赤白血病のマウスモデルを作製し、治療標的としてSETDB1やHDAC7を同定した。また、MLL転座型骨髄性白血病の発症が、特にNK細胞によって抑制されていることを見出した。そして白血病治療薬Decitabineの作用機序について解析し、よく知られているDNAメチル化阻害作用だけでなく、Decitabineが細胞の正常な有糸分裂を阻害する作用を持つことを明らかにした。
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