研究課題/領域番号 |
22K19542
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
西田 陽一郎 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 准教授 (40444111)
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研究分担者 |
横田 隆徳 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (90231688)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | pseudo-fasting状態 / 脳血管内皮細胞 / Glucose transporter-1 / FDG-PET / 特殊飼料 |
研究実績の概要 |
脳血管内皮細胞に高発現するGlucose transporter-1 (GLUT1) を活用した薬物送達技術を開発し、静脈投与の高分子を投与量の6%という極めて高い効率で脳内に送達させることに成功したが(Nat Commun 2017)、この際に用いた6週齢のBALB/c miceマウスで、自由摂食と一定時間絶食とで脳へのグルコース取り込み量が変化するという先行研究はない。まずはそれを検証するため、自由摂食と12時間絶食した本マウスにFDG-PETを行い、standardized uptake value (SUV) maxが自由摂食群 0.75±0.07に対して絶食群 1.07±0.13と、絶食群で脳への18F-FDG集積が有意に上昇(p = 0.008)するのを確認することに成功した。 通常の動物実験用の餌には蛋白・脂肪・グルコースがバランスよく加えられており、我々の研究では適さないため、(1) 蛋白・脂肪・グルコースを含むProtein, Fat and Glucose (PFG)餌、(2) 蛋白・脂肪のみのPF餌、(3) グルコースのみを含むG餌を我々で独自に考案し特殊飼料を作成した。それぞれ、(1) PFG餌:カゼイン24.5g+コーンオイル6.0g+グルコース45.5gの76.0gで334kcal、(2) PF餌:カゼイン60.0g+コーンオイル10.4gの70.4gで334kcal、(3) G餌:グルコースのみ83.5gで334kcalとして、総カロリーを揃えた。しかし、味や匂いなどにマウスが慣れていないためか摂食量が異なり、ランダムに予定外の“絶食”が生じてしまう可能性が考えられた。そこで、これらの餌を自由に、また、強制給餌も加えた後に血糖値を測定する予備実験を繰り返し、血糖値が安定する給餌方法を検討した上でFDG-PETを繰り返し行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
自由摂食と12時間絶食したマウスでのFDG-PET実験で、絶食群において18F-FDGの脳への集積が有意に上昇することを確認(SUV max自由摂食群 0.75±0.07 vs 絶食群 1.07±0.13; p = 0.008)することに成功したことは想定通りであった。 しかし、前述のように、我々が独自に考案し作成した特殊飼料を今回の研究で用いることは必須であり、その調合にも成功しているが、特殊飼料の味や匂いによるのかもしれないが、マウスの摂食量にバラツキがでてしまい、特殊飼料のカロリーを揃えたにも関わらず血糖値が群間や群内でも実験毎に大きくばらついた。これに対応するために、特殊飼料の形態を粉上に変えることや、摂食量の測定、全ての食餌もしくは部分的な食餌をゾンデによる強制給餌などにするなど、試行錯誤を繰り返し、当初の想定よりもFDG-PET実験とその予備実験に多大な時間を割いている状況である。 また、FDG-PET実験においては、GLUT1をより鋭敏に評価するために、これまでに解析してきているSUVmax以外の指標としてTime activity curve(TAC)の最初の数分のグラフの傾きを評価し直すことも必要かもしれず、検討している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
計画当初より、Nat Commun 2017で用いたグルコース結合型高分子ミセル(薬物キャリア)を投与してミセルが脳に到達する量を測定する研究も予定していたが、前述のように様々な課題があり研究が遅れている。しかし、そもそもの本研究の目的は、グルコースが高効率で脳に取り込まれるための“pseudo-fasting”状態を人工的に作り出す独自の生物学的手法を模索するための背景となる分子機構を探ることである。そのため、マウスの静脈に投与したミセル総投与量の何%が脳内に送達するかを検証することは、実はあまり本研究の発展には寄与せず、マウスFDG-PETを行いて脳での18F-FDGトレーサーの取り込み量を評価するので十分代用可能なはずである。また、GLUT1機能をより鋭敏にFDG-PET実験で評価するために、これまでのデータからTime activity curve (TAC)の最初の数分のグラフの傾きを評価し直すことも可能かもしれず、FDG-PET研究に精通してる有識者の意見を伺っている最中である。元来ミセルの作成や保存、投与、脳内分布の測定などは非常に大きな時間と労力を要する予定であったため、このミセル実験をスキップすることにより今回の研究の後れを取り戻し、今後推進してゆく方策である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述のようにFDG-PET実験とその予備実験に多大な時間を割いており先に進めなかったが、次年度は打開し、マウスFDG-PET実験で“pseudo-fasting”状態を作り出せる条件を見つけ出し、その条件の元にあるマウス群で血中ホルモンを含めたプロテオミクス解析や、血液脳関門の分子発現をトランスクリプトーム解析・プロテオーム解析を行い、飢餓状態において脳がエネルギー(グルコース)を担保する腸脳連関およびBBBでの分子メカニズムは何かを解明し、中枢神経疾患の治療を実現する高分子医薬品の脳内デリバリーの基盤技術を開発して神経疾患に対する創薬開発に顕著な進歩をもたらしたい。
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