研究課題
本研究課題達成のために令和4年度は下記の検討を行った。・MIE-1 (Gal-7)の発現と細胞外分泌機構の解析:MIE-1の実体としてGalectin-7 (Gal-7)を同定した。in vitro培養系で低酸素環境によるGal-7の発現誘導や細胞外への分泌の誘導について検討したところ、低酸素によるGal-7の誘導は認められなかった。また、抗がん剤によるGal-7の細胞外分泌の影響を検討したが、細胞死によりGal-7放出は亢進しなかった。むしろ生細胞が能動的に分泌しているものと考えられた。一方で、腫瘍内のGal-7高発現の区域ではサイトカインの発現が低下していたことから、サイトカインが抑制因子として機能していると考え、IFN-gやTNF-aのGal-7産生に対する影響を検討したところ、TNF-a処理により有意にGal-7の発現が低下した。よって、癌細胞と免疫細胞の相互作用によりGal-7の発現が制御されていることが分かった。・Gal-7による転移誘導の機序解明:Gal-7を欠損させた癌細胞の腫瘍について、腫瘍内のCD8+ T細胞やCD11c+ 樹状細胞について調べたが明らかな免疫細胞の変化は認められなかった。Gal-7はがん細胞自身の浸潤・転移能を高めている可能性が考えられた。・食道扁平上皮癌患者におけるGal-7の発現解析:食道癌患者200例の原発腫瘍組織のホルマリン固定標本から作製された組織マイクロアレイを用いてGal-7の免疫染色を行い、転移や予後などの臨床的悪性度とGal-7発現量との相関を検討したが、有意な相関は認められなかった。また、食道癌患者の確定診断後、術前治療の前後ならびに手術の前後の4つのタイムポイントで採取した血漿サンプルを用いてELISA法で血中のGal-7濃度を測定したが、転移・再発など患者予後との相関も認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
高転移腫瘍の空間的トランスクリプトーム解析で見出した新規転移促進因子Gal-7の発現制御・作用機構の解明に向けて成果を上げつつある。
ヒト扁平上皮癌患者におけるGal-7の発現解析について、今回は食道癌を対象として検討を行ったが、当初の空間的トランスクリプトーム解析で用いたマウスNR-S1M細胞のは口腔癌由来なので、ヒト検体でも口腔扁平上皮癌組織で臨床的な悪性度とGal-7の発現レベルの相関を検討する。Gal-7の作用機構について、獲得免疫以外の自然免疫や腫瘍マクロファージや好中球の関与についても検討を行う。さらに、Gal-7による転移促進の作用機構についてもin vitroの癌細胞の浸潤・遊走能を検討し、さらにGal-7以外の転移促進因子について検討も進める。
年度末に購入した試薬類が当初の見積もり金額よりも安価に購入できたので当該助成金が生じた。次年度の消耗品の購入に充てて実験規模の拡充を図る。
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