今年度までに以下の研究成果が得られた。 ・Galectin-7の同定とその発現制御機構の解明:免疫関連転移促進因子の実体としてGalectin-7 (Gal-7)を同定し、培養系で検討したところ、癌細胞が周囲のがん微小免疫環境の変化に応じてGal-7が分泌されているものと考えられた。サイトカインによる発現制御について、IFN-gやTNF-aによる影響を検討したところ、TNF-a処理により有意にGal-7の発現が低下した。よって、癌細胞と免疫細胞の相互作用によりGal-7の発現が制御されることが分かった。 ・G-CSFによる癌細胞増殖の促進と好中球浸潤の誘導の2機能性の解明 高転移株のNR-S1M腫瘍においてG-CSFが発現上昇し好中球の腫瘍内浸潤が亢進していることを見出した。そこで、CRISPR/Cas9でG-CSFを欠損させたNR-S1M細胞を作製したところ、意外にもG-CSF欠損細胞はin vitroでの細胞増殖能が低下していた。さらにマウスの腫瘍移植実験では、原発腫瘍の増大が抑制され、リンパ節転移および肺転移が抑制された。この時、末梢の好中球の割合が減少し、CD8陽性T細胞の割合が増加していたので、Ly6G中和抗体により好中球を欠失させたところ、原発腫瘍の増殖がわずかではあるが有意に抑制されたことから、G-CSFを介した腫瘍関連好中球の誘導も原発腫瘍の増殖に寄与することが分かった。 ・ヒト扁平上皮癌の臨床検体におけるGal-7とG-CSFの発現の検討:食道癌患者200例の原発腫瘍の組織マイクロアレイを用いてGal-7の免疫染色を行い、転移や予後などの臨床的悪性度とGal-7発現量との相関を検討したが、有意な相関は認められなかった。また、一方で、G-CSFの発現をヒト食道癌の組織マイクロアレイで解析したところ、G-CSF高発現群で有意に予後不良となることが分かった。
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