研究課題
エピゲノムはゲノム情報を制御し細胞の性質を運命づけるゲノム修飾情報であるが、消化器癌発生にはエピゲノム異常が大きく関与している。それゆえエピゲノムを標的とした機能性分子の開発と新たな治療法の基盤創生が、特に薬剤抵抗性の難治癌症例に対して求められている。従来の機能性分子単剤では作用領域がゲノム全体に及ぶ弊害があるため、本研究では、DNA配列を認識する小分子ピロール-イミダゾールポリアミド(PIP)を機能性分子に融合させ、作用領域を局所化させる技術開発を行った。ヒストン脱メチル化酵素阻害剤やヒストンアセチル化酵素阻害剤の構造を改変・簡略化したプロトタイプ化合物を合成し、PIPと縮合してそれぞれ腫瘍細胞へ投与しWST-8アッセイによって増殖抑制作用を確認した。縮合したPIPが認識する配列を含む領域において有意にエピゲノム改変が起きることをChIP-seq法により検証した。並行して、癌で標的となるエピゲノム異常領域を同定する解析を進めた。胃癌を網羅的エピゲノム解析するとユニークなエピゲノム異常を呈するいくつかの分子サブタイプに層別化され、胃癌サブタイプの1つであるEBV陽性胃癌では、EBV感染によりゲノムワイドにDNA異常メチル化が誘導され極端な高メチル化を呈するだけでなく、EBVゲノムがヘテロクロマチンに結合することによりエンハンサー活性化マークH3K4me1, H3K27acを獲得し、癌原遺伝子が発現亢進して発癌に寄与する。咽頭癌でも検証すると、EBV関連上咽頭癌でもEBV蛋白であるLMP1の作用によりDNA異常メチル化が誘導され癌抑制遺伝子が抑制されること、EBV感染によりEBVゲノムがヘテロクロマチンに結合し胃癌と同様にH3K4me1, H3K27acを上昇させ癌原遺伝子を発現上昇させることを同定した。またEBVゲノムが結合する領域に、胃癌と同様の配列特性を認めた。
2: おおむね順調に進展している
ヒストン脱メチル化酵素阻害剤やヒストンアセチル化酵素阻害剤の構造を改変・簡略化したプロトタイプ化合物をPIPと縮合し、腫瘍細胞へ投与して増殖抑制作用や領域選択的なエピゲノム阻害効果を認めるなど化合物合成と検証を順調に進めている。実際の癌で標的となるエピゲノム異常領域の同定やエピゲノム異常誘導モデルを用いた検証においても、胃癌や咽頭癌など重要なエピゲノム変化領域を順調に同定し、EBV感染モデルを用いた解析においてもEBV関連胃癌だけでなくEBV関連上咽頭癌を用いて、共通するダイナミックなエピゲノム変化と、共通する有力な標的領域を順調に同定した。標的となり得る塩基配列を認識するPIPをエピゲノム阻害剤に縮合した化合物について今後検証する。
標的となり得る塩基配列を認識するPIPをエピゲノム阻害剤に縮合した化合物について、EBV関連腫瘍細胞や感染モデルを用いて検証実験を進めるとともにそのデータから化合物の改良を行いシーズ化合物を合成する。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 5件、 招待講演 8件) 備考 (1件)
Int J Cancer
巻: 152 ページ: 1847-1862
10.1002/ijc.34439
BBA - Molecular Basis of Disease
巻: 1869 ページ: 166598
10.1016/j.bbadis.2022.166598
Gastric Cancer
巻: 26 ページ: 95-107
10.1007/s10120-022-01344-3
Methods Mol Biol
巻: 2519 ページ: 127-140
10.1007/978-1-0716-2433-3_15
Chiba Medical J
巻: 98E ページ: 1-7
10.20776/S03035476-98E-1-P1
病理と臨床
巻: 40 ページ: 116-122
巻: 40 ページ: 19-25
https://www.m.chiba-u.ac.jp/class/moloncol/