研究課題/領域番号 |
22K19554
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
田中 真二 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (30253420)
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研究分担者 |
新部 彩乃 (樺嶋彩乃) 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (20445448)
島田 周 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (20609705)
秋山 好光 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 講師 (80262187)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / 難治性がん / 播種転移 / 肝転移 / 免疫逃避 / 腫瘍関連線維芽細胞(CAF) / CAR-T / 免疫疲弊 |
研究実績の概要 |
近年のゲノム編集技術の開発によって大きな技術革新が生まれており、治療開発への応用が期待されている。申請者は挑戦的研究(萌芽)H30-R1/R2-3年度により高効率多重ゲノム編集技術を開発し、ヒト・マウス初代培養細胞およびCAR-T細胞へ同時に複数の遺伝子変異を導入する革新的手法に成功した(Int J Cancer 2019, Carcinogenesis 2019, 2020, EBioMedicine 2020, Sci Rep 2021)。本研究では、高効率ゲノム編集技術をin vivo CRISPR/Cas9 sgRNA library導入へ応用し、膵癌細胞の網羅的ゲノム編集解析により転移能獲得機序を解明し、CAR-T細胞の網羅的ゲノム編集解析により膵癌組織への免疫浸潤機序を解明する。癌細胞および免疫細胞の両面から膵癌の難治性機序を明らかにして、新規治療法を開拓する挑戦的課題である。 (1)膵癌細胞のin vivo網羅的ゲノム編集解析による転移能獲得機序の解明と治療開発 C57BL/6マウス由来KrasG12DTrp53R172H膵癌株KPC (Dr. David Tuvesonより分与)にマウスsgRNA library (lentiCRISPRv2; 20,611遺伝子+Cas9)を導入して転移腫瘍を作成し、転移制御に関わる候補遺伝子群を抽出して、腫瘍免疫微小環境の解析を進めている。 (2)CAR-T細胞のin vivo網羅的ゲノム編集解析による免疫浸潤機序の解明と治療開発 膵癌を標的とするMSLN-CARベクターとマウスsgRNA library (lentiCRISPRv2)をC57BL/6マウスT細胞に導入し、MSLN+ KPCマウス膵癌を同所性移植した担癌マウスにCAR-T治療を施行して、免疫浸潤制御に関わる候補遺伝子群を抽出し、分子生物学的解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究ではin vivo網羅的ゲノム編集解析によって、(1)正常免疫下における膵癌の肝転移能および腹膜播種転移能獲得機序、(2)CAR-T細胞の腫瘍内浸潤および宿主免疫反応機序という2つの視点から、典型的な難治性癌である膵癌に対する新規治療法の開発を併行して進めており、複合的・相乗的効果によって当初の計画以上に進展している。 (1)膵癌細胞のin vivo網羅的ゲノム編集解析による転移能獲得機序の解明と治療開発 肝転移腫瘍および腹膜播種転移腫瘍から組織DNAを抽出してsgRNAバーコードをPCR増幅し、ライブラリー・シーケンスにて転移腫瘍におけるsgRNA頻度を解析して、各転移制御に関わる候補遺伝子群をそれぞれ抽出した。各候補遺伝子をノックアウトしたKPC膵癌細胞を作成し(FC1242, FC1245)、 腫瘍関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblasts; CAFs)の新規サブタイプに伴った特異的腫瘍微小環境を新たに見出しており、さらにOVA導入膵癌細胞およびIL-10 reporterマウスを用いた免疫微小環境の解析も進めている。 (2)CAR-T細胞のin vivo網羅的ゲノム編集解析による免疫浸潤機序の解明と治療開発 MSLN CAR-T治療後 腫瘍を採取し、組織DNAを抽出してsgRNAバーコードをPCR増幅し、ライブラリー・シーケンスにて浸潤CAR-T細胞のsgRNA頻度を解析して、免疫浸潤制御に関わる候補遺伝子群を抽出した。各候補遺伝子をノックアウトしたCAR-T細胞を作成し、同所性膵癌モデルにより癌組織への免疫浸潤能および治療効果を解析している。さらにCas9-transgenicマウスを用いて、高効率のin vivo網羅的ゲノム編集解析手法の開発も開始する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究計画として、課題(1)では膵癌の肝転移および播種転移を制御する腫瘍免疫微小環境を解明する。特に播種転移に特異的な制御遺伝子候補として、線維化関連分子群を同定しており、新規CAFサブタイプが誘導されることを明らかにしている。我々が同定した新規CAFサブタイプと、OVA導入による腫瘍免疫活性化との分子相互作用を解析し、治療標的を同定する。さらに、転移巣には制御性T細胞および制御性B細胞が集簇することを見出しており、IL-10 reporterマウス(IL10Venus; 大阪大学竹田潔教授より分与)を導入して、既に線維化関連シグナル・ノックアウト膵癌細胞を作成しており、転移形成の腫瘍免疫微小環境の解明によって治療開発を進める方針である。課題(2)では、CAR-T細胞の腫瘍浸潤を制御する候補遺伝子として、T細胞の免疫疲弊および免疫記憶(メモリー)関連マーカーを同定しており、ゲノム編集CAR-T細胞を用いて機序解明を進める。sgCas9タンパク質は約160kD、遺伝子は4,104塩基で構成されており、タンパク質や遺伝子導入に伴う細胞障害によって、CAR-T細胞の疲弊が惹起される可能性も明らかとなった。本研究を推進するため、Cas9遺伝子を導入したtransgenicマウスB6J.129(Cg)-Igs2<tm1.1(CAG-cas9*)Mmw>/Jを使用する方針としており、米国Jackson Laboratoryからの輸入および本学実験動物センターへの移入手続きを始めている。高い活性を維持したゲノム編集CAR-T細胞を作成するとともに、高効率のin vivo網羅的ゲノム編集解析手法を開発し、難治性がん特異的CAR-T療法への展開を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
膵癌は典型的な難治性癌であり、特に播種転移は患者のQOLを著しく損なうだけなく頑強な疼痛とともにカヘキシアを誘発し、有効な治療法もないため極めて不良な転帰に至る病態であるが、本研究によって新規CAFサブタイプが治療標的となる可能性を見出しており、当初の計画以上に進展している。さらに、腫瘍浸潤を誘導する新規CAR-T治療開発に加えて、高効率のin vivo網羅的ゲノム編集解析手法の開発を開始している。OVA導入によるC57BL/6-Tg(TcraTcrb)1100Mjb/J (OT-1)マウス、IL-10 reporterマウス、Cas9-transgenicマウスなど複数のマウスモデルを整備した。次年度使用額を用いて、これらの研究成果に基づいた治療開発を推進し、前臨床試験を行うことを計画している。転移制御治療および革新的CAR-T細胞治療の開発は挑戦的研究として最重要課題であり、難治性膵癌を克服する新規治療を開発し、臨床応用へと展開する方針である。
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