膵癌は5年生存率が6-10%と極めて予後が悪い難治癌である。癌の個性は遺伝子変異に加え、ゲノム背景や癌細胞の細胞特性に起因すると考えられるため、患者由来腫瘍組織移植モデル(PDX)や患者由来のプライマリ癌細胞が利用されるようになってきている。しかしながら、患者検体を比較する上では摘出時の癌の進展度や変異が異なることから、癌の特性におよぼす遺伝子変異とゲノム背景の違いを区別して評価することが困難である。特に、次世代シークエンス解析の発展により、VUS(Variants of Uncertain Significance)と呼ばれる臨床的意義不明のバリアントが多く見つかっており、機能未知の遺伝子の変異の他、例えば癌抑制遺伝子として有名なp53などにおいても臨床的意義不明のバリアントが数多く存在する。従ってこれらの機能解析はがん治療へ向けた新たな標的としての可能性が期待されている。しかしながら、VUSの機能解析を実施する為にはin vitroで操作可能な癌オルガノイドを対象とした効率の良い遺伝子改変技術の開発が不可欠である。本研究課題では、癌の個性の実態解明へ向け、癌オルガノイドを対象とした効率の良い遺伝子改変技術の開発を目指す。本年度は現状でプライマリ癌細胞を対象に遺伝子改変は数%程度と極めて効率が悪い。遺伝子導入効率が悪いこと、遺伝子組み換え効率が悪いことなどが原因として挙げられる。数%の効率では数百から数千個単位で単離する必要があるが、労力、コスト両面から実験的に困難である。また、膵癌の予後と相関する因子についても不明な点が多い。そこで、組み替えの為の遺伝子導入が一つのハードルになっていると考えられるため、エレクトロポーレーション法の他、遺伝子導入試薬の検討、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる導入を検討した。
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