研究課題
平滑筋は体内の様々な臓器に分布し、多岐にわたる機能を受け持つ。種々の教科書で「平滑筋は、ミオシンの軽鎖がリン酸化されることで、細胞内Caによる収縮調節を受ける」と説明される。「多様性に富む全身の平滑筋収縮が、太いフィラメントへのリン酸化酵素制御だけで調節されるか?」と疑問に感じられる。研究代表者らは予備研究で、平滑筋でアクチン側の収縮制御に関与する可能性のあるトロポニンT (TnT)が、膀胱などの平滑筋組織に相当量発現することを見出し、一方、Ca 感受性蛍光タンパクのレシオ計測から、異なる臓器・組織の平滑筋サンプルで細胞内Ca 濃度を比較する技術を有する。そこで本研究では、多様性の根底にある張力発生メカニズムを、細いフィラメント・アクチン側での制御の可能性も含め探索する。組織臓器特異的な細胞内Ca濃度の維持・変動もレシオメトリックCa感受性蛍光タンパクで測定し、収縮の特徴及び含有される収縮タンパクの特徴と関連付ける。2022年度は特にレシオメトリックCa感受性蛍光タンパク・YC-Nano50を平滑筋に発現するトランスジェニックマウスを用いて、いろいろな平滑筋の細胞内Ca濃度を定量して比較したところ、平滑筋はどれも骨格筋に比べて低い傾向がみられた。さらに各平滑筋間でも差異が認められた。例えば、膀胱平滑筋の静止時細胞内Ca濃度は、調べた平滑筋の中で最も高く、腹壁骨格筋の80%程度であった。一方、胃の前庭部平滑筋や子宮平滑筋の静止時細胞内Ca濃度は、膀胱平滑筋の半分程度であった。さらに、結腸平滑筋組織では、近位部と中・遠位部で異なるCa活動パターンが観察されたが、静止時の細胞内Ca濃度はほとんど同じであった。中・遠位部では、伝搬性収縮複合体に相当するCa活動と収縮を記録することができた。1-2秒間隔での不完全テタヌスの収縮・弛緩は酵素以外の制御の可能性も示唆した。
2: おおむね順調に進展している
1)レシオメトリックCa感受性蛍光タンパク・YC-Nano50を平滑筋に発現するトランスジェニックマウスを用いて、いろいろな平滑筋の細胞内Ca濃度を定量して比較したところ、平滑筋はどれも骨格筋に比べて低い傾向がみられた。さらに各平滑筋間でも差異が認められた。例えば、膀胱平滑筋の静止時細胞内Ca濃度は、調べた平滑筋の中で最も高く、腹壁骨格筋の80%程度であった。一方、胃の前庭部平滑筋や子宮平滑筋の静止時細胞内Ca濃度は、膀胱平滑筋の半分程度であった。この事実をまとめて論文発表することができた。また、結腸の近位部と中・遠位部で異なるCa活動パターンを、各部位における運動特性と関連付ける論文の投稿準備ができている。2)細胞内Caによるアクチン側調節の可能性を探るため、細胞膜を化学的に穿孔して細胞内Ca濃度を変化させる Skinned標本での実験計画を、研究分担者・梶岡と緊密に連絡して立案している。平滑筋特異的タンパクがCa感受性タンパクと複合体を作り機能することを調べようとしている。また、各平滑筋組織でのRNA発現の定量も行っている。
いろいろな平滑筋のCa濃度とその活動を計測することができ、また一方、Skinned標本による研究計画もおおむね順調に進行している。さらにこれらの研究をグレードアップするために、アクチン側収縮調節の研究において、3次元分子シミュレーションも導入することができれば、平滑筋特異的タンパクとCa感受性タンパクの複合体機能の推定に大いに役立つと考えられる。そこで、タンパクの3次元構造を専門とする研究者と交流している。また、細胞内のアクチン関連分子の動きをモニターする方法(分子特異的な蛍光タグ)があれば、分子機能と運動性とを関連付けることができる。分子ツール製作グループとの交流も行いたい。平滑筋特異的タンパクの機能確認のためには、コンディショナルノックアウト動物が準備できればたいへん有用である。そこで、科研費研究課題として、2023年度は先端モデル動物支援プラットホームへ応募を予定している。
コロナ禍のため他研究機関の研究者との交流や研究内容が限定されてしまい、また2023年年明けまでは、学会参加はオンラインのみであったため。さらに、本年度の研究結果を解析したところ、次年度に収縮を伴う蛍光測定の実験と解析を拡充する必要があることが分かったので、追加の使用目的が生じた。未使用額は、その目的の実験・解析に使用する。
すべて 2023 2022 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
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巻: 10 ページ: -
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Sensors and Actuators B: Chemical
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https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2022/05/post-252.html