平滑筋は全身の様々な組織臓器に分布し機能に応じた多岐に亘る運動を発生する。例えば、気管支や血管では持続的な収縮により気流・血流を調整する。一方、消化管や子宮では相性収縮を発生する。応募者らは予備研究で、アクチン側の平滑筋収縮制御に関与する可能性のあるトロポニンTが、膀胱などの平滑筋組織に相当量発現することを見出した。さらにCa 感受性蛍光センサタンパクの蛍光レシオを用いて、異なる臓器・組織の平滑筋サンプルにおいて細胞内Ca 濃度を比較する技術を有する。そこで本研究では、「多様性に富む平滑筋収縮が、ミオシン軽鎖のリン酸化・脱リン酸化の酵素制御だけで調節できるのか?」「臓器組織に特徴的な多様な運動性は、どのような細胞内Ca 活動で造り出されるのか?」と現状の理解に疑問を投じ、多様性の根底にある自発性興奮・収縮連関メカニズムを究明した。 レシオメトリックCa感受性センサを筋に発現するマウスのいろいろな部位で細胞内Ca濃度を比較したところ、子宮や胃幽門部は、骨格筋に比べ有意にCa濃度が低いことが分かった。さらに最終年度には、胃において各部を詳しく比較計測したところ、幽門部に比べ胃体部・胃底部での細胞内Ca濃度が有意に高かった。平滑筋はペースメーカ細胞とギャップ結合を介し連結するので低分子イオンが流入する。則ち、臓器内でペースメーカ細胞内Ca濃度の勾配が形成され伝搬方向を制御する可能性が示唆された。さらに、結腸の近位部と中部・遠位部では、それぞれに特徴的な自発性興奮が観察され、神経伝達物質により基底Ca濃度が調節されることが分かった(論文作成中)。また、消化管平滑筋組織のシングルセルRNAシーケンスデータを精査解析した。MYH11を平滑筋マーカとしたところ、少なくとも3つ以上にサブグループ化され、MLCKだけでなく、アクチン側の収縮調節が示唆されるCNN1やTNNT2も発現していた。
|