研究課題
脊髄損傷後にアストロサイトが活性化して反応性アストロサイトとなり、損傷辺縁部から損傷中心部へ遊走し、外傷後に脊髄へ浸潤した白血球を損傷中心部へ押しやり、組織修復と機能回復に寄与する。近年我々は、脊髄損傷後にマクロファージの遊走がアストロサイトの遊走に関与している事を発見し、ATP, ADPに対するP2X/Y受容体が損傷中心部へのアストロサイトの遊走に影響する可能性を見出した。そこでまず、具体的にはどのP2X/Y受容体がマクロファージによるアストロサイト遊走促進に影響しているかを探索し、マクロファージから分泌されるATPがADPとなり、これが反応性アストロサイトP2Y1受容体と反応して細胞内シグナリングを経て遊走を促す可能性が浮上した。トランスウェルアッセイにて、マクロファージ方向への遊走がP2Y1受容体を介する事を明らかにした。そこで、損傷脊髄中心部にマイクロカテーテルを設置してATPを持続髄注したところ、 反応性アストロサイトの遊走が促進され、最終的に形成されるグリア瘢痕の体積が減少した。また、マクロファージが反応性アストロサイトを引き寄せるメカニズムとしてADP-P2Y1受容体系に着目し、P2Y1受容体のinhibitorであるMRS-2179を脊髄損傷後に髄注したところ、アストロサイトの求心性遊走が阻害される事が判明した。これらの結果は、損傷中心部へ遊走・集簇したマクロファージが分泌したATPがADPとなり、このADPが反応性アストロサイトのP2Y1Rを介して遊走を促進した可能性を示している。
2: おおむね順調に進展している
本研究においては、脊髄損傷後のアストロサイトとマクロファージの損傷中心部への遊走を、ATPやプリン受容体作動薬の投与によって促進することによる新規治療法の開発を最終的な目標としている。現在までにATP投与によるアストロサイト遊走促進効果や、P2Y1R受容体阻害によるアストロサイト遊走阻害効果を確認しており、順調に進展していると考えられる。
今後は、AR-C69931MX (P2Y12R inhibitor), AR-C 118925XX (P2Y2 R inhibitor), 8-SPT (A2a-A3 inhibitor), MRS-2179 (P2Y1R inhibitor), NF-449 (P2X1R and P2X4R inhibitor) をマウスの損傷脊髄へ経時的に髄注し、マクロファージとアストロサイトの遊走に与える影響を病理組織学的に解析する。LFBによる髄鞘染色で脱髄範囲の評価を行う。 また、マクロファージやアストロサイトの遊走促進により、グリア瘢痕がより損傷中心側で形成され、範囲が縮小する可能性がある。これを評価するため、マウスに脊髄損傷を加え、ATP投与後に病理組織学的解析を行い、グリア瘢痕のサイズを評価する。軸索進展阻害因子となるグリア瘢痕が縮小した結果、損傷部での軸索再生が促進される可能性がある。GAP43による再生軸索の免疫組織学的解析と、シナプス形成の評価を行う。
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