研究課題
ヒトiPS細胞から網膜ミュラー細胞を自己分化によって作成することに成功した。iPS細胞を3次元浮遊培養して脳と網膜原基にまで分化させた後に平面培養に移行することによって、網膜原基から培養皿上で遊走する形で分化した。作成したミュラー細胞はクララボ、グルタミンシンセターゼ、ビメンチン、glial fibrillary acidic protein(GFAP)等のミュラー細胞マーカーの免疫染色に陽性を示し、ことにクララボのような幼若な細胞を示す染色が強い陽性をし示した。マイコロアレイによる遺伝子プロファイルも、ミュラー細胞に一致しており、幼若なグリア細胞であることも示唆された。ヒトiPS細胞から誘導した網膜神経節細胞と共培養すると、網膜神経節細胞の軸索はこのミュラー細胞に沿って顕著に軸索が伸長した。発生においては網膜神経節細胞の分化と軸索伸長にミュラー細胞が関与していると考えられている。今回の所見は、このヒトiPS細胞由来ミュラー細胞が網膜神経節細胞の軸索の誘導を行っていることを示すものであり、そこから産生される成長因子が細胞間で伝達されていることも示唆された。このミュラー細胞の培養上清をヒトiPS細胞由来網膜神経節細胞の培養液に添加すると、網膜神経節細胞の軸索伸長が亢進した。これによって、細胞外神経栄養因子がミュラー細胞から分泌されていることが強く示唆された。培養上清のプロテオーム解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
ヒトiPS細胞から網膜ミュラー細胞を作成したことは、免疫染色と遺伝子プロファイルから証明された。幼若であれば発生過程であり、網膜神経節細胞の分化と軸索伸長に影響するので研究目的に合致しており、この点についても証明した。ヒトiPS細胞由来網膜神経節細胞の軸索伸長を亢進することも明らかになった。
ヒトiPS細胞由来網膜ミュラー細胞から神経栄養因子が放出されていることが強く示唆されたので、培養上清のプロテオーム解析を進める。候補化合物を明らかにした段階で、個々の化合物の網膜神経節細胞の分化と軸索伸長への影響を比較検討する。この個々の検討に時間を要すると思われる。
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