研究課題
ヒトiPS細胞から網膜ミュラー細胞を培養条件を調整して自己分化させ作成することに成功した。形態学および細胞マーカーの免疫組織学、およびマイクロアレイによる遺伝子発現パターンの検討から、この細胞は発生過程の初期にあたる未熟な状態であることが判明し、発生分化の研究に適切である。網膜発生において網膜神経節細胞等の他の細胞の発生分化を促進している働きがあると推測され、ヒトiPS細胞由来網膜神経節細胞と共培養したところ、神経節細胞の軸索伸長を顕著に亢進することが明らかになった。細胞の接触効果よりは網膜神経節細胞の発生分化を湖心する成長因子を分泌している可能性が考えられた。このヒトiPS細胞由来ミュラー細胞の培養上清をプロテオーム解析し、成長因子候補を絞り込んだ。各々の候補物質をin vitroでヒトiPS細胞由来網膜神経節細胞単体と共培養して。発生分化を亢進させる効果を明らかにした。2023年にPCT特許申請を行った。次いで、このiPS細胞由来ミュラー細胞の再生医療への可能性を検討した。マウスに移植したところ、網膜内に生着し、発生分化が進むことを組織化学的に確認した。さらに人工的に網膜に裂孔を作成し、ここにiPS細胞由来ミュラー細胞を置くと、細胞は増殖して傷を塞ぐことが明らかになった。ドナーの網膜には創傷治癒だけで障害は起こらなかった。したがって、網膜剥離や外傷に対して自己細胞を用いた安全な創傷治癒に用いられる可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
ヒトiPS細胞由来ミュラー細胞から新規の網膜細胞成長因子を同定し、特許申請に至った。新たな神経保護薬、神経再生薬の開発につながる。ミュラー細胞が創傷治癒に用いられることを明らかにした。網膜の損傷に対して光凝固や手術のような侵襲が強い治療法に比べて、自己細胞による治癒を行える可能性が開けた。
既にに見出した網膜細胞成長因子に対して、神経傷害に対する保護や再生への効果をin vitroおよびin vivo(マウス等の実験)で検討する。ヒトiPS細胞由来ミュラー細胞の移植の可能性、創傷治癒の治療の可能性について、in vivo実験を進める。
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