研究課題
高齢者の多くは骨粗鬆症(骨量減少)とサルコペニア(筋量減少)が同時並行的に生じており、骨量減少―筋量減少―痛み(腰や膝)の悪循環が高齢期の自立を妨げ、健康維持の大きな問題となっている。サルコペニアの発症機序は不明な点が多く、研究途上にある。最近、組織間相互作用の研究が広がり、骨-骨格筋クロストークに関する研究報告も出始めた。骨格筋恒常性維持機構を骨-骨格筋のクロストークから理解する研究は芽生え期の研究と言える。申請者等は、ミトコンドリア局在型Superoxide dismutase 2(SOD2)酵素欠損によるミトコンドリア機能不全誘導で臓器加齢を模倣したモデル系での解析から、骨細胞由来因子が骨格筋量維持に重要な働きを示唆するデータを得た。本研究は、この仮説を実証するために、ミトコンドリア機能不全を示す骨細胞が特異的に分泌する骨格筋恒常性抑制因子を探索し、その因子が骨格筋細胞に萎縮変化を生じさせることを明らかにする。骨細胞由来因子による骨格筋制御機構を骨-骨格筋クロストークの切り口から解析し、加齢性筋萎縮の病態解明を目指す。
2: おおむね順調に進展している
骨細胞特異的SOD2欠損マウスの骨組織の遺伝子発現をRNA-Seq法で調べたところ、骨代謝制御因子Sost, Ranklに加え、統合的ストレス応答遺伝子Atf4, Fgf21, Chopの発現が増加していた。これらの発現変化はRT-PCR法で確認できた。また同マウスの骨格筋組織を同様にRNA-Seq法で遺伝子発現を調べたところ、Fgf21の発現増加が認められた。FGF21は主に肝臓で発現・分泌される内分泌ホルモンとして知られているが、飢餓やERストレス、ミトコンドリア機能不全などのストレス応答で脂肪組織、脳、腎臓、骨格筋等で発現増加する。またFGF21は様々な代謝性疾患に対する保護作用に加え、逆に骨萎縮や骨格筋萎縮作用が知られている(Tezze, C. Et al. Front. Physiol. 2019)。また組織学的解析を行ったところ、筋繊維数の減少、筋繊維周囲の細胞外成分肥厚などの形態学的変化が認められた。これらの結果は、骨-骨格筋連関による筋ATF4-FGF21軸の異常が間接的な骨格筋恒常性破綻を引き起こしうると考察された。
骨細胞特異的SOD2欠損マウスは、骨細管形態異常とRANKLおよびSclerostinの産生亢進による骨量減少に加え、骨格筋量の有意な萎縮を示した。この結果は、骨細胞のミトコンドリア機能不全による間接的な骨格筋恒常性破綻を示唆した。これまでの細胞実験から、SOD2欠損、または脱共役剤CCCP処理で、共通してストレス応答因子ATF4の活性化とSclerostinを含む下流遺伝子群の発現変動を明らかにしている。またこの応答が個体の骨組織でも同様に生じていることも予備的に明らかにしている。そこで、変異マウス骨から単離した初代Sod2欠損骨細胞の培養上清、または骨細胞株MLO-Y4細胞に脱共役剤CCCPを添加して培養した培養上清を筋芽細胞株C2C12細胞に添加して、分化誘導系での筋管細胞形成率、死細胞率、形態異常率などの筋管分化能への抑制効果を調べる。分化誘導等を抑制する負制御因子の存在が判明したら、それぞれの培地上清を抗体アレイを用いたプロテオミクス解析を行い、RANKLやSclerostinも含めて共通分子を同定する。また、中和抗体や阻害剤等の共添加で分化抑制作用の消失を調べ機能的裏付け実験も行う。さらに骨細胞株や変異マウス由来骨細胞で本因子の遺伝子発現とタンパク質発現、さらに変異マウス血清や老齢マウス血清での血中レベルも調べ、ミトコンドリア機能不全によって骨細胞から分泌される骨格筋恒常性抑制因子を明らかにする。
遺伝子発現解析試薬や生化学試薬の納期遅延、および実験動物の繁殖計画が変更になった。また成果発表を予定していた学術集会がWeb開催となったため次年度使用額が生じた。次年度に遺伝子発現解析試薬、生化学試薬費、実験動物費用、旅費をとして使用する予定である。
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